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風花や(大寒)

 教育実習でやってきた国語のY先生は、高校生の僕らよりも幼く見える女の人だった。
 小柄で化粧っ気もなく大きな眼鏡を掛けていて、下手をすると同級生の女子たちの方がよっぽど大人っぽい。
「教育実習生、女子大生だって!」と色めき立っていた男子たちは、こっそり盛大にがっがりした。
 当たり前だが授業もたどたとしく、黒板の前でしばしば途方に暮れる様は、先生というより叱られた子供のようだった。
 Y先生の授業のときは、塾の宿題やほかの教科のテスト勉強をしたり本を読んだりと、みな好き勝手なことをしていた。
 女子たちは、他愛もないことを書いたメモを回し、クスクスと笑い合う。
 Y先生は笑い声が聞こえる度に顔を赤らめ、山ほど持ち込んだ資料をガサガサと広げる。
 生意気な生徒たちを黙らせる方法がどこかに書いてないか、必死に探しているようだった。
 
 窓の外には、キンと澄んだ冬の青空が広がっている。
 陽射しは明るいが、時折、北風が窓ガラスをガタガタ鳴らす。
 陽射しと暖房で教室の中は程よく暖かく、昼休みに食べた弁当でお腹は満たされ、Y先生の方丈記の授業は退屈だった。
 先生が黒板を向いている隙に、思う存分、大きな欠伸をする。
 頬杖をついて窓の外を眺めていると、視界の隅で何かがチラリと光った。
 目を凝らすと、空は高く晴れたままなのに、氷の粒がヒラヒラと風に舞っている。
 山の上空の雪雲から、煽られて飛んで来た雪粒だろう。
 いきなり僕の名前が呼ばれた。
 間抜けた顔で前を向くと、Y先生とばっちり目が合った。
 眼鏡の奥で、思っていたよりも大きな瞳が、困ったように僕を見つめていた。
「次のページ、読んでください」
 僕は慌てて立ち上がり、方丈記の原文の一節をなんとか読み終えた。
「ありがとう」
 先生は嬉しそうに言って、僕を座らせた。
 まともに言うことを聞く生徒がいたことに、ほっとしたのかも知れない。
 僕は再び外を見た。
 Y先生は僕の視線の先を追い、「あ!」と小さく声を上げた。
 その声に反応して数人が顔を上げたが、またすぐ、興味なさそうに下を向いた。
 先生は黒板の左隅に、綺麗な字で「風花」と書いた。
 風の花?
 今、開いている教科書には、どこにもそんな言葉は出てこない。
 先生は窓の外を指差してから、黒板の字をトンと叩くと、皆が気がつく前に素早くその字を消した。
 悪戯っ子じみた笑顔を、僕だけが目撃した。
 僕は手元にあった古語辞典で、「風花」を調べた。


 生まれてくる子供が女の子だったら、「ふうか」という名前にしたいと思う。
 だいぶ大きくなったお腹を撫でながら、妻は、「どんな漢字で?」と尋ねた。
「風の花、と書いて『ふうか』ってどうだろう?」
 しばらく首を傾げていた妻は、「あ!」と言うと悪戯っ子のような笑顔になった。


  風花や子のかざす手に唇に
  (1月13日放送 NHKラジオ文芸選評より)


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日当りと風通しだけが自慢の我が家、真冬でも陽射しが射し込めば暖房要らずです。
上の写真は数年前の大寒の頃のものです。
今年は暖かい大寒となりました。
ただし、週明けからは大雪の恐れだとか。
風花どころか、ドサドサ湿った雪が積もりそうで戦々恐々としています。
このまま春に…なんて願いは、虫が良すぎますものね。

ラジオで耳にした風花の句が、とても綺麗で心に残りました。
声に出して読んでみても気持ちよいのです。愛誦性がある句、ということなのでしょうか。
この句の作者さんが、萩市にお住まいの男性ということまでは必死で覚えたのですが、すぐにメモできる状態でなかったため、お名前までは無理でした(脳みその容量が少ない。。)
ほかの入選作の、「ついと来て風花ついと消えにけり」や、「風花や書かねば消えてしまう詩(うた)」なども、素敵だなぁと思いました。

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二十四節気、次は立春。
今年もようやく一巡りした気分です。
もともと手持ちの想像力及び創作力があまりに乏しいので、15日ごとの作り話もそろそろ息切れしてまいりました。
この大寒で一区切り…と思ってもいたのですが、とても大切な方から「続けてくださいね」というお言葉を、タイミング良く頂いてしまいました…。
一人でも楽しみにして下さる方がいる限り、乾いた雑巾をギュウギュウ搾るように、なんとか頑張ってみようかなと思っております。
それには色々、お話の種を探して育てなければいけないですね。
心のアンテナが、錆び付かないように磨き続けないと。


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by bowww | 2018-01-20 14:37 | 作り話 | Comments(4)

神の一撃(小寒)

 宇宙に直接触れているような暁。
 身を潜め、息を殺して夜明けを待つ生き物たち。
 有明の月は白銀。山々の頂の雪を青く染める。
 地と空の境界に紅が滲む。
 兆し。
 紅はやがて金色に。
 薄れる闇に、月は輝きをおさめる。
 確かな兆し。
 光の矢が放たれる。
 地が染まり、生き物たちは生まれ変わる。
 何百億回も新しい朝。

  寒暁や神の一撃もて明くる 和田悟朗

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新年明けて5日目、小さな小さな声で、あけましておめでとうございます。
本当はもう少し早く新年のご挨拶を申し上げたかったのですが、年末から同僚たちがバタバタとインフルエンザに倒れ(一週間で4人。。)、それによって休日返上を余儀なくされ(大晦日まで働きました。。)、なんだかお正月気分を全く味わえないまま今日に至る、なのです。
そして昨夜は私自身が発熱、これは感染ったか!と慌てたのですが、一晩眠ったら平熱に戻り、念のために行った病院でのインフル検査の結果も「シロ」でした。
風邪薬を処方してもらって、ぼんやり過ごしています。やれやれ…。

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今年から5年日記をつけようと決めました。
年々、手のひらからサラサラと砂が零れるように、記憶が曖昧になっていきます。
「去年の今頃は…」という振り返る楽しみもあるのでしょうが、実はもう少し切実な気持ちも。
自分の体の変化や、親の様子も記録していくと、いつか具体的に役に立つのではないかと思いまして。
毎日、たった5行分なので、何とか続けられそうです。

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もう一つ、新年にあたって決めたことが、字の練習です。
私の悪筆は周りでも有名で、私のキャラクターと書いた字のギャップが、どうやら大き過ぎるようなのです。
学生時代の先輩からは、「お前の年賀状、あれだろ?ふざけて左手で書いたんだろ?」と、真顔で訊かれるという始末。。
私の走り書きのメモを見た母親が、「今更だけど…」と絶句するとか。
そのくせ文房具が大好きで、ちまちま買ってしまうのです。
でも、自分の字で汚すのが嫌だから、ノートも便箋も宝の持ち腐れに…。
ならば、練習して、多少でもまともな字を書けるようにしよう。
ン十年生きて、やっとそういう気持ちになりました。
太字の万年筆とインクも買って、背水の陣(?)で挑みます。
…なんて言いつつ、紙にあれこれ書き散らすのは楽しい作業です。
一年間ちゃんと続いたら、もう一本、万年筆を買おうと目論んでいます。
ここで宣言しておけば、多少は頑張れるでしょうか…。

寒の入り、一年で一番寒い季節に突入しました。
皆様も、ご自愛くださいますように。




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by bowww | 2018-01-05 20:18 | 身辺雑記 | Comments(2)