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クリスマスの頃(冬至)

 サンタさんは園長先生です。
 蓮(れん)君は知っています。
 幼稚園の遊戯室にみんなで集まって、オルガンに合わせてジングルベルを歌って、先生たちの劇を見終わると、部屋のカーテンが閉められて真っ暗になりました。
 ツリーに明かりが灯ります。
 シャンシャンシャンシャン…。
 鈴の音が聞こえてきたかと思うと、赤い服と赤い帽子、真っ白い髭をふさふささせたおじいさんが登場しました。
「サンタさんだ!サンタさんだ!」
 みんな、大騒ぎです。
 でも、蓮君は知っています。お兄ちゃんが教えてくれました。
「サンタなんかじゃないさ、園長先生だ。俺、先生が髭を隠してるところ見たもん」
 お兄ちゃんは一昨年まで、蓮君と同じ幼稚園に通っていました。お兄ちゃんはなんでも知っているのです。
 サンタさんは一人ひとりに、プレゼントを渡していきます。
 蓮君の番がきました。
「…ね、園長先生でしょ?サンタさんじゃないんでしょ?」
 蓮君はそっと尋ねました。
 サンタさんは一瞬、手を止めて蓮君の顔をじっと見つめました。
 そして、
「サンタさんね、急にお腹が痛くなっちゃったから、先生がこっそり代わったんだよ。
 よく気がついたね。でも、サンタさんが可哀想だから、蓮君と先生だけの秘密にしておいてくれるかな?」
 と、蓮君だけに聞こえるような小さな声で言いました。
 お兄ちゃんの時も、サンタさんはお腹をこわしたんだろうか。
 蓮君はちょっと不思議に思ったけれど、先生のお願い事なので小さく頷きました。
 先生はにっこり笑うとプレゼントをくれました。
 たぶん、色鉛筆のセットと落書き帳です。
 プレゼントの中身も、お兄ちゃんが教えてくれました。

 蓮君のお母さんは仕事が忙しいので、幼稚園のお迎えにはおばあちゃんが来てくれます。
 お父さんはいません。
 だからお母さんは、お父さんの分まで働かなきゃいけないんだと、蓮君もお兄ちゃんも分かっています。
「サンタさん、来てくれた?」
 おばあちゃんに聞かれて、蓮君は「う〜ん…」と返事をしました。
 園長先生との約束なので、「サンタさんじゃないよ」とは言えません。
「今夜はおばあちゃんの家でクリスマスね」
 お母さんの仕事が終わるまで、蓮君たちはおじいちゃんおばあちゃんの家で待つのです。
 去年も一昨年も、おじいちゃんおばあちゃんとクリスマスをしました。
 小さなツリーを見て、小さなケーキを食べれば、おばあちゃんたちとのクリスマスはおしまい。
 テレビのコマーシャルで見るようなチキンもピザもありません。
 おじいちゃんたちのプレゼントは本と決まっているので、蓮君もお兄ちゃんもいまいち盛り上がらないのです。
 蓮君が大きなあくびをし始めた頃、お母さんが二人を迎えに来ました。

 サンタクロースは本当にいるのかな。
 蓮君は最近、そう思い始めました。
 お兄ちゃんに聞いてみようかとも思ったのですが、「いるわけないじゃん」と言われるのが怖くて止めました。
 去年も一昨年も、クリスマスの朝には枕元にプレゼントが置いてありました。
 たぶん、サンタさんが届けてくれたのです。
 でも、幼稚園のサンタさんは園長先生だったし、ケーキ屋さんでケーキを売っていたサンタさんは、ケーキ屋さんの息子さんでした(おばあちゃんが、「あら、○○君、大きくなって!」と挨拶していました)。
 誰でもサンタさんになれるってこと?
 僕の家に来てくれたサンタさんは本物かな。
 本物だよね、僕とお兄ちゃんが欲しかったものをプレゼントしてくれたもの。
「あれ?蓮はまだ起きてるの?寝ないとサンタさん来てくれないよ?」
 布団の中でもぞもぞ考えている蓮君を、お風呂から出たお母さんが覗き込みました。
「今、寝てたところ」
 蓮君が目をつぶると、お母さんは笑いながら隣の布団に潜り込みました。
「ねえ、お母さん、大人の人にはサンタさん来ないの?」
「ううん、そんなことないよ。大人の人にも来てくれるんだよ。時々だけどね。」
「お母さんも何かもらった?」
「もらった、もらった」と、お母さんは蓮君をギュッと抱きしめて言いました。
「蓮とお兄ちゃん。一番の宝物」
 お風呂上がりのお母さんは、ふわんといい匂いがします。
 大人の人のプレゼントは不思議だなと思いながら、蓮君は眠りました。

 翌朝、蓮君とお兄ちゃんの枕元にはリボンのついた包みがありました。
 蓮君は大好きなキャラクターのおもちゃ、お兄ちゃんはスニーカーです。
 パジャマのままではしゃぐ二人を、お母さんは「支度して。遅刻しちゃうよ」と急かしました。
 蓮君は幼稚園へ、お兄ちゃんは学校へ、お母さんは仕事へ。
 いつもの一日が始まります。

 その夜、お母さんはいつものように蓮君たちの寝顔を見てから、布団に入りました。
 枕の下で、何かガサコソ音するので引っ張り出してみると、蓮君の絵が出てきました。
 どうやら、お母さんと蓮君とお兄ちゃんを描いたようです。
 絵の中のお母さんはピンクのワンピース姿で、お兄ちゃんは青いスニーカーを履いています。
 蓮君は、赤い服に赤い帽子でサンタクロースみたいです。
 覚えたばかりの平仮名で、「だいすき」と書いてありました。
「ほら、サンタさん来た」
 お母さんは呟いて、絵をギュッと抱きしめました。


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友人の息子君が、保育園のクリスマス会の後で言い放った台詞が、「サンタさんじゃないよ、園長先生だよ」だそうで、思わず吹き出してしまいました。
4歳にもなると、侮れませんね。
サンタクロース、自分は何歳ぐらいまで信じていたかなぁ。
そして、クリスマスに心ときめいたのは、何十年前のことだったかなぁ。
社会人になってからは、ただただ仕事に追いかけられるだけの季節です。。
クリスマスソングを聞くだけで、胃がキューッとなります。。

同僚の働くママさんたちを、私は本当に尊敬します。
子育てと家事をこなすだけでも大変なのに、仕事もきちんと片付けます。
私の職場は残念ながら、女性が働きやすい職場とは言いがたいのです。
大きな重い荷物を抱えて、逆風の中を歩いているしんどさがあると思う。
何とかして、彼女たちの力になれないだろうかと思っています。
頑張るママさんたち(もちろん、パパさんたちも)が、穏やかな気持ちでクリスマスを過ごせますように。

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今日は冬至。
このところ、寒中並みの寒さが続いていますが、陽射しの明るさに救われます。
今夜は柚子湯に入りました。
ゴリゴリに凝った背中と肩が、少しほぐれました。
気忙しい年末、「落ち着け落ち着け」と唱えながら過ごそうと思います。



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by bowww | 2017-12-22 23:25 | 作り話 | Comments(0)

石の椅子(大雪)

 冬の公園はあっけらかんと明るい。
 背の高い木々の葉は落ちて、骨格標本のような梢を北風に晒している。
 手袋も持ってくれば良かったと、マフラーに顔を埋める。
 日向のベンチを選んで座っても、やっぱり風が冷たい。
 皆、肩を竦め、足早に通り過ぎて行く。私を気にする人などいない。
 なんだ、こんなに簡単なことだったんだ。
 昼休みに学校を抜け出した。
 普通に帰り支度をして、普通に校門を出て、普通に駅まで歩いた。
 いつ呼び止められるか内心はビクビクしていたのに、誰にも咎められなかった。
 家とは逆方向の電車に乗ってから、スマホの電源も切った。
 こんなに簡単に行方不明になれるんだ。
 大きな公園がある駅で降りた。

 高校に入って友達が二人できて、楽しく過ごしてきた。
 でも、お昼を食べるとき、教室を移動するとき、トイレに行くとき、放課後、ちょっと遊びに行くとき。
 「とにかくいつでもなんでも一緒」なのが、正直なところ面倒くさくなっていた。
 女子は敏感だ。
 ほかの二人は、私より先に私の気持ちに気がついて、私より先に距離を置き始めた。
 無視ほどあからさまではなく、二人で遠巻きに私を見ているような。
 自分で招いたことだから仕方がないと思いつつ、やっぱり穏やかな気分ではいられない。
 このまま「ぼっち」になるのも怖い。
 スマホの電源を入れようとして手を止める。
 彼女たちから連絡が来ていれば面倒だし、来ていなければ気持ちがザワザワする。
 鞄にスマホを放り込み、文庫本を開いた。
 せっかく学校を抜け出したけれど、にぎやかな場所へ行く勇気とお金がない。
 宙ぶらりんな自分に、ため息が出る。

 やっと本に集中し始めた頃、お年寄りの夫婦がゆっくり歩いて来た。
 おじいさんは左足が少し不自由なのか、杖をついている。
 ベンチまで来ると、おばあさんが私に「お勉強中にごめんなさいね」と断って、おじいさんを座らせた。
 私は会釈して、右側を空けた。
 私、おばあさん、おじいさんの順番で並んで座る。
 おばあさんは持っていた小さな鞄を開けて、テキパキと水筒や紙包みを取り出した。
 おじいさんは杖に凭れて、生け垣を指差した。
「ああ、山茶花ね。咲いてますね」
 水筒には熱い焙じ茶が入っていたらしく、香ばしい匂いが届く。
「熱いから、しっかり持ってくださいよ」と、おじいさんの右手にカップを渡す。
 続いて紙包みをゴソゴソすると、もっと甘く香ばしい匂いが広がった。
 思わず横目で確認してしまう。
 たい焼きだ。
 おばあさんの膝の上に、むちっと太ったたい焼きが三匹並んでいた。おじいさんからカップを受け取り、代わりに紙でくるんだたい焼きを渡す。
「はい、どうぞ」
私の視界に、いきなりたい焼きが突き出された。
「…え?」
「お隣になったご縁。嫌いじゃなきゃどうぞ」
「…でも…」
「ついね、切りよく『三つください』って言っちゃうのよ。
 持ち帰っても冷めちゃうし荷物になるから、食べてもらったら助かるの」
 お腹がグゥ…と鳴る。
 そういえば、お昼を食べていなかった。
「それじゃ、いただきます」
 たい焼きは手のひらにズシッと重く、まだ温かかった。
 尻尾やヒレの先が少し焦げて、お腹の辺りは中の餡が透けて見えた。
 頭から齧る。
「あら、あなたも頭からなのね。うちの人もなの。私は尻尾から」
 おばあさんは笑って、尻尾を千切った。
「…あの、尻尾のカリカリした部分が好きで、最後に食べたくて…」
「私は餡の部分を取っておきたいのよ。だから本当はお腹を最後にしたいくらい」
 おじいさんは、私とおばあさんがお喋りしている間にたい焼きを食べ終えていた。
 おばあさんは再び、お茶を渡す。
 おじいさんはおばあさんの肘をちょいちょいと突く。
「そうね、お勉強の邪魔しちゃいけないわね」
「いえ、本を読んでいただけですから。こちらこそ、ご馳走さまでした」
 おじいさんは私の手元を覗き込み、本のタイトルを見てにっこり笑った。
「この人、学校の先生をしてたのよ。本が好きでね、家中、本だらけ。
 今は小さな字を読むのも一苦労だから、ほとんど宝の持ち腐れよ。
 それでも、本を読んでる若い人を見ると嬉しいんでしょうね」
 おばあさんが荷物を片付けている間、おじいさんは私の本を指差して、
「本はいい。本はいい」と二度呟いた。

 かじかんでいた指先が、たい焼きのおかげで少し温まった。
 ゆっくり歩いて行くおじいさんとおばあさんの背中を見送ってから、ぐんと伸びをする。
 足元に積もった枯れ葉がガサゴソと音を立て、日向の匂いが立ち込めた。


  枯れ葉のため小鳥のために石の椅子 西東三鬼

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寒くなりました。
あったか下着と貼るカイロが手放せません。
明日は雪の予報が出ています。
冬へまっしぐら。

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来年の手帳を買いました。
ここ数年、ほぼ日のウィークリータイプの手帳を買っていたのですが、どうしても最後まで使い切れず、もったいないことを繰り返してきました。
内勤なので、予定表としては月ごとのカレンダーだけで用が足ります。
今回は薄くシンプルなマンスリータイプの手帳を選びました。
表紙は向日葵みたいな陽気な黄色です。
仕事ばかりではなく、楽しい予定も書き込めるといいなと期待を込めて。



 

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by bowww | 2017-12-07 22:40 | 作り話 | Comments(2)