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透きとほりけり(立夏)

 木になるのだという恋人を、ぼくは結局、引きとめられなかった。
「どうして、木になんかなりたいの?」
 なにか悩み事があれば一緒に考えるし、寂しいなら二度と一人にしたりしない。
 君の話をもっとちゃんと聴く、悪いところは全部直すから。
「あなたに不満があるわけじゃなくて…」
 困ったように笑って、恋人はぼくを抱きしめた。
 ああ、もう決めてしまったんだと、彼女の腕の涼やかさに思い知らされる。
「生まれ変わってからでも遅くないのに…」
 むだだと分かっていても、腕の中で駄々をこねる。
「来世なんて信じてないくせに」
 耳元で弾ける笑い声に、ぼくはつい釣られてしまう。

 滑らかな樹皮に、すんなりと伸びた枝。
 一枚一枚、几帳面に整った葉が、良い匂いがする風に揺れる。
「綺麗な若葉だね。君らしい」
 ぼくの声は聞こえているのだろうか。
 ぼくのことを覚えているのだろうか。
 幹に触れようとして、思いとどまる。
 気やすく触れたら叱られそうだ。
 翡翠色の木漏れ日に、ただ染まる。
 

  さびしさも透きとほりけり若楓 永島靖子


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by bowww | 2018-05-05 19:51 | 作り話


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