立夏

 一つ違いの姉は、いつもどこでも人気者だった。
 器量が良い上に愛嬌がある。勉強やスポーツが得意で友達も多い。
 私は地味な顔立ち、平凡な成績、内気な性格と、ちょうど姉の裏返しのような存在だった。
 両親は揃って小学校の教師だったせいもあって、私たち姉妹をとても理性的に平等に扱った。
 姉がとびきり優遇されていた記憶はない。無責任な他人が姉をちやほやすると、やんわり私を庇った。
 欲しいものは姉も私も同じように与えられ、または与えられなかった。
 洋服や靴を新調する時は、同じものを同じタイミングで用意してくれた。
 お揃いの白いワンピースを着て、二人並んで撮った写真が残っている。
 姉はふんわり白い花のようだ。
 私は、その格好を懸命に真似している奇妙な子供だ。
 今思えば、母は無意識のうちに、姉に似合う洋服ばかり選んでいたのではないか。
「なんでも平等っていうのは、残酷なものよね」
 半世紀も生きてくれば、そんな思い出も笑い話にもできる。

 子供の頃に読んだ童話の「眠り姫」には、生まれたばかりのお姫さまに、妖精たちが様々な贈り物を与えるという場面が出てくる。
 美貌だとか知恵だとか優雅さだとか。
 きっと姉には、キラキラしたギフトが山のように贈られたのだろう。
 そして、あまりに気前良く贈ってしまったものだから、私に回すギフトがほとんど残らなかったのだ。
 小さな頃は可愛らしい姉にひたすら憧れ、思春期になればコンプレックスに苛まれた。
 それでも、数は少ないながら良い友人に恵まれ、私は私なりの楽しみを見つけていった。
 私には似合わない服は選ばなくなった。
 姉はいつでも私に優しかったが、共通の話題は少なく、互いになんとなく距離を置いていた。
 姉は短大に、私は教職を目指して大学に進んだ。
 教職は自分に向かないと早々に判断し、図書館司書の資格を取ろうと方向転換した頃、姉には早くも縁談が持ち上がっていた。
 短大の教授に気に入られ、ぜひ息子の嫁にと請われたのだ。
 息子は開業医で、姉が短大を卒業したらすぐに式を挙げるという。
「お姉ちゃん、もったいなくない?私なんかより頭良いんだし、モデル顔負けの美人なんだし…」
 もっと自由を楽しんでから結婚すればいいのに。
「女の人は、請われて結婚するのが幸せなのよ。それにいつまでも美人でいられるわけでなし」
 と、母は笑った。
 姉には玉の輿というギフトも用意されていたらしい。
 となると、私は自活できる道を考える方が手っ取り早い。
 華やかな結婚式で、姉は咲き誇る花よりも美しかった。

 その後、姉は二回離婚した。
 一度目の医者には実は数人の愛人がいて、隠し子騒動まで勃発、二年で実家に戻ってきた。教授夫妻が二人揃って実家を訪れ、誠実に詫びてくれたことは救いだった。
 なかなかドラマティックな展開になったのだが、姉は案外、あっけらかんとしていた。
 短大で取得した資格を生かして、病院の事務で就職した。
 当然、言い寄る医者は多かったようだが、「もう医者はこりごり」と見向きもせず、友人の紹介で知り合ったという会社員と再婚した。
 再婚相手の男性は、姉をとても大切にしてくれた。
 慎ましくてもあたたかい家庭になりそうだと皆で安心していたら、今度はなんと、姉が「ほかに好きな人ができた」と言い出した。
 別れる別れたくないとかなり揉めて、結局は三年後に離婚が成立した。
 それでその「好きな人」と結婚するのかと思ったら、「前の夫に申し訳が立たないから」ときっぱり別れたという。
 きわめて常識的な両親は、一連の騒動でぐったり老け込んだ。
 私は同じ頃、大学図書館で働いていた。
 就職と同時に実家を出たので、姉と両親の様子を遠巻きに眺めているような状態だった。
 自慢の娘が、どうしてこんな騒動ばかり起こすのか、老いた両親には皆目見当がつかないようだった。
 姉が戻った翌年、父が倒れ、半年ほど患ってから亡くなった。
 健康に気をつけていた母も、三年後に倒れた。
 姉にばかり介護を任せるわけにはいかないと、私も実家に戻ろうとすると、
「いかず後家と出戻りが揃った家なんて、格好悪いわよ。あなたはあなたの生活をお続けなさい」
と、姉がおっとりと笑い飛ばした。
「私が二人の寿命を縮めたようなものだもの、責任取るわ。時々、手伝いに来てね」
 私はしげしげと姉の顔を見つめた。
 姉は変わらず美しく、美しい上に強い。
(無敵だな)と思うと、なんだか可笑しさがこみ上げてきた。

 母を見送った頃には、姉も私も四十代になっていた。
 姉はさっさと実家と敷地を片付けると、私が住む街に越して来た。
「バラバラでいるより、二人まとまって暮らす方が経済的」と意見が一致し、結局は「いかず後家と出戻り」が、喧嘩しながら一つ屋根の下で暮らすことになった。
「子供の頃は喧嘩なんかしなかったのに…」
「あの頃はお姉ちゃん、優しかったもん」
「あなたはもっと素直で可愛かったわ」
 お互いに憎まれ口を叩きつつ、気楽に日々を送った。
 年齢を重ねて、やっと近づく距離もあるのだと思った。

 一生、独り身だと思っていたら、五十歳を目前にして恋人ができた。
 同級会で再会したクラスメイトと、話をしてみたら思った以上に会話が弾んだ。
 相手はバツイチで、気ままな独身生活が長いという点が共通していた。
「残り僅かな人生、笑いながら支え合って過ごそうよ」というプロポーズの言葉が、やたらと現実的に響いた。
 姉に話すと、
「あら!それなら一緒に結婚式やっちゃいましょ」
「…はい?」
「私もプロポーズされちゃったの。ちょうど良かったわね
「プロポーズ?誰から?受けるの?三回目?」
「ほら、夫だった人、二度目の。この前ばったり会ったって話、しなかったかしら?
 そうしたら、もう一度やり直そうって…。
 気心も知れてるし、何より『今でも好きだ』なんて五十歳になって言ってくれる人なんて、そうそう居ないでしょ」
 …呆れて何も言えない。
「三度目の正直っていうのかしら?今度はうまくいくと思うの」
 おっとりと笑う姉は、やはり無敵だ。
 ウェディングドレス姿は絶対に姉に適わないから、私は着物にしようと思っている。
 



立夏=5月5日〜19日頃
初候・蛙始鳴(かわずはじめてなく)次候・蚯蚓出(みみずいずる)末候・竹笋生(たけのこしょうず)

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今年は季節の進み方が早くて、すでに初夏の気配濃厚ですね。
写真の八重桜、実は去年の5月4日に撮ったものでした。今年はとっくに散っています。
ツバメが元気よく飛び回っているのですが、この数日は風が強くて、紙切れのようにヒラヒラと煽られています。

今回の作り話、なかなかネタが思いつかず。。
ええぃ!と書き始めたら、なんだか呑気な二人の話になってしまいました。
本当はもう少し、屈託した話にするつもりだったのですが、スカッとした青空を見ていたらこんな感じに…。
書いている本人が能天気なので、仕方がないですかねぇ…。

とりあえず、作り話のみ更新です。


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by bowww | 2016-05-05 11:17 | 作り話 | Comments(2)
Commented by 11hiyo at 2016-05-17 23:39
おこんばんは~
わざわざ会場に足を運んでいただいて本当にありがとうございました。
はんなりとした柔らかな時間をご一緒できて
とても嬉しかったです。
お二方ともたくさん笑って素敵なお顔で会場を後にされました。
いえいえ何よりもありがたかったです。
伝えたい想いがあるのが伝わってきて、
どんなことにも真剣で、ちゃんと遊び心があって
楽しいってこういうことだなと想いました。
いっぱいいっぱいありがとうです^^
次にお目にかかれる日を楽しみにしています(*^o^*)
Commented by bowww at 2016-05-19 10:07
hiyoさま。

お礼を申し上げるのが遅くなりました、ごめんなさい。
素敵な写真展、今回もたくさんの方々がいらして、たくさんの出会いがあったのだろうなぁ…と思っておりました。
ついついK君の裏話ばかりしてしまいました。
エピソードに事欠かないものですから(笑)。
皆さんの遊び心と、その遊び心を最大限に生かせるように真剣にカメラと向き合っている様子が見て取れました。
真剣に遊べるオトナって、カッコイイですよね。
たくさん刺激を頂きました。
本当にありがとうございました。


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