第六十七候 芹乃栄

 正月休みが終わって仕事に出掛け、家に戻ると出し損ねた相手から年賀状が届いていた。
 慌ててこちらも、予備にと買い置いてあった年賀状をしたためる。
 さて、これで明日の朝、出勤途中にポストに放り込めばギリギリ松の内に届くだろう。
 暮れに用意した正月用の酒が、まだ少し残っている。
 こちらも松の内に片付けねば…と、つい一杯。
 そうそう、ちょっと値が張るシングルモルトを買っておいたのだ。
 チョコレートと一緒にデザートに。
 …などとやっているうちに、すっかり良い気分になってしまった。
 ふと、書き上げた年賀状が目に付く。
 僕の性格からして、慌ただしい出勤前に葉書を忘れずに持って出るかどうか、かなり疑わしい。
 忘れる可能性の方が断然高い。前科も多々ある。
 それなら、今夜のうちに投函しておけばいいじゃないか。
 家からポストまでは歩いて五、六分。
 酔った弾みだろう、僕は再びコートを着込んでマフラーを巻いて表に出た。

 満月が近い。青みがかった月光が、寝静まった家々を照らし出している。
 酔いは、刺さるような寒さで吹き飛んだ。
「やっぱり明日にすれば良かった…」と空を仰ぐと、月が明るいのにも関わらず、たくさんの星が瞬いている。
 空の天上が抜けて、宇宙の底に直接触れているような寒さ。
 僕のアパートのある住宅街は、昔からの集落の隣に造成された場所で、少し歩けば田んぼや畑が広がっている。
 だから殊の外、空は澄んで見えるのだ。
 僕はコートのポケットに手を突っ込んで、ポストがあるタバコ屋まで急いだ。

 タバコ屋はもちろんとっくに閉店していて、店先の自動販売機だけが明るい。
 自販機の光に、四角い郵便ポストが浮かび上がる。
 ポケットから年賀状を取り出して投函しようとすると、先客がいることに気がついた。
 小さな男の子だ。
 一生懸命に伸び上がっているのだが、投函口になかなか手が届かない。
 僕は、小さく「手伝おうか」と声を掛けた。
 男の子はびっくりしたように振り返り、まず首をブンブン横に振って、すぐにコクコクと頷いた。
 僕は男の子から葉書を受け取ると、自分の年賀状と一緒にポストに入れた。
 カサカサコトン。
 男の子はまん丸の目で僕を見上げて、やっぱり小声で「ありがとう」と言った。
 顔が埋もれるくらいフワフワな毛皮のマフラーは、お母さんの物を借りてきたのだろうか。
「夜遅いから、お家まで送っていこうか?」
「ううん、大丈夫。すぐそこにお母さんが待っているから」
 では、あまりお節介を焼いていると、悪い人に思われてしまう。
 それでも、男の子があまりに人懐っこい風で僕を見つめるので、
「誰にお手紙出したの?」と尋ねてみた。
 男の子は嬉しそうに
「お父さん。お父さん、鎮守さまをお守りする係だからずっと留守にしてたの。
 もうすぐお仕事が終わるから『早く帰って来てね』って書いたんだ」
 と答えてくれた。
 鎮守さま?
 その時、向かいの公園で「ケーン!」と鋭い鳴き声がした。
 男の子は「ありがとうね」ともう一度言うと、公園の中へ駆けていく。
 お尻の辺りで、フサフサの金色の尻尾が元気に揺れていた。



〜芹乃栄(せり すなわち さかう)〜



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二十四節気は小寒。寒の入りです。
1月7日は七草粥を頂く日、芹は春の七草の一つですね。
せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草。
春の七草は、そらで言えます。でも、実物を全部見たことはありません。
スーパーで売っている七草セットには、全部ホンモノが入っているのかしら。
なにせ、我が家の両親は「お粥?いらないいらない。胃薬飲めばいい」という情緒もへったくれもない二人なので、昔から七草粥を食べたことがありません。
確かに…丈夫な時にお粥を食べても美味しいとは思えないかな。
でも、お腹を壊したり熱を出したりした後で、やっと口に出来るお粥は、五臓六腑に染みるような気がしますよね。
海の旬は、カサゴ、ムール貝などなど。
山の旬は、カブ(すずな、ですね。すずしろが大根)などなど。
昨年、美味しい小料理屋さんで国産の新鮮なムール貝を食べさせてもらいました。
シンプルな潮汁風のスープにしてもらったのですが、旨味と風味にびっくり。
パエリアなんかに乗ってくるムール貝は、貝殻ばかりが立派で身はシオシオと縮こまっているので、美味しいというイメージがなかったのです。
新鮮なものは、やっぱり美味しいんですね。
カブは浅漬けが一番好きですが、鶏肉と一緒にミルクスープにしても美味しいです。

時々、近所でキツネを見かけます。
近くのお宮の森に、一族が棲み続けているようです。
夜、車を運転していると、何かが道を横切ります。
野良犬かな?と思ってよく見ると、見事な尻尾をなびかせて走り去っていきます。
会えると、ちょっと嬉しくなります。


実は私、新年早々に家の中で盛大な尻餅をつきまして、未だに体のアチラコチラが痛くて困っています。。
一部始終を見ていた弟が「笑いたいけど笑えないけど笑いたいけど、やっぱり笑えない」と言ったぐらい、それはそれは見事な尻餅だったようです。
念のため、レントゲンを撮ってみましたが、尻尾は無事でした。
そんなこんなで、新しい写真を仕入れることができず、かなり昔のものを引っ張り出してきました。ごめんなさい。
波乱の2015年幕開け…。
これで今年一年分の厄を落としたと思いたい…。


次回は1月10日「水泉動」に更新します。

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by bowww | 2015-01-06 09:48 | 七十二候 | Comments(1)
Commented by つねさん at 2015-01-06 13:08 x
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