第四十二候 禾乃登

 ただいまご紹介いただきました、新婦・都さんの友人で、木谷由美と申します。
 彰さん、都さん、またご両家ご親族の皆さま、本日はまことにおめでとうございます。
 友人として、お祝いの言葉を述べさせて頂きたいと思います。

 都さんとのお付き合いは、大学時代に始まりました。
 同じサークルに入ったことがきっかけでしたが、話をしてみると好きな小説家やアーティストが同じだったり、美味しいものを食べ歩くのが好きだったりと共通点がたくさんあって、すぐに意気投合しました。
 それからは、お互いの下宿に泊まっては朝までお喋りをしたり、こっそり講義をさぼって遊びに行ったり。アルバイト代を貯めては、国内外へ旅行にも出かけました。
 これだけ気が合うのに、私たちの性格は正反対と言ってもいいかもしれません。
 私は引っ込み思案で、人の輪の中に混じるのが苦手。
 一方の都さんは面倒見が良くて明るく、そしてご覧のように、スタイルは抜群で笑顔もチャーミングです。男女を問わず、みんなの人気者でした。
 都さんと一緒に居るだけで、私までもうきうきと楽しい気分になれます。私の楽しい学生時代の思い出には、必ず都さんが登場します。
 そんな都さんですが、一つだけ苦手なことがありました。
 それはお料理です。
 どちらかのアパートに泊まるとき、食事を作るのは私の役割でした。
 都さんが包丁を使う手つきなんて、危なっかしくて見ていられなかったのです。
 有りあわせの材料で私が簡単な料理を作る度に、都さんは「美味しい!由美はいいお嫁さんになるよね、料理で男の人の胃袋と心を鷲掴みだよ!」と褒めてくれました。
 それに気を良くした私は、ますます料理の腕を磨きました。
 今では小さな料理教室を開くまでになったのですから、都さんに上手におだててもらって私の将来が決まったようなものです。

 ある時、私は同じサークルの先輩に恋をしました。
 もちろん、都さんに打ち明けました。
 都さんも全面的に応援してくれたのですが、私はあっさりふられてしまいました。
「ほかに好きな子がいるんだ」と。
 一晩、泣き明かしました。都さんがずっと隣に居てくれました。
 明け方、「お腹空いたでしょ」と都さんは残りご飯でおにぎりを作ってくれたのです。
 手のひらをご飯粒だらけにして。
 三角形とも俵型とも言えない、大きさもまちまちでゴツゴツのおにぎりです。
「不格好!」と、思わず吹き出しました。
 でも、美味しかった。
 お腹にずんと、力が湧く味でした。
 おかげで、翌日からは笑顔でその先輩に挨拶できました。

 それから半年ほどしてからでしょうか。
 都さんのアパートに呼ばれました。
 いつになく真面目な顔で、都さんが私を待っていました。
「先輩と付き合うことになったの」
 どうやら、先輩の「好きな子」は都さんだったようなのです。
 なんと答えればいいか分からず、私は黙ったままアパートから飛び出しました。
 私は悔しさついでに自棄になって、先輩を問い詰めました。
 都さんのどこが好きなのか、どうして私じゃないのか。
 そんなこと、本当は自分がよく分かっているのです。
 都さんは美人で性格も良くて人気者です。私が敵うわけないのです。
「…おにぎり。あいつが作ったおにぎりが、なんか、すごく美味かったんだ」
 あ、それなら仕方がない。
 ストンと思いました。
 サークルの夏合宿で、夕飯の余ったご飯を見た都さんが、「もったいない」とおにぎりにしたことがあったのです。
 先輩はそれを食べたのでしょう。
 おにぎりは、「おむすび」ともいいますよね。
 食べることへの感謝の気持ちや、相手への愛情などを込めて、そっと大切に結ぶから「おむすび」なのではないかな、と思います。
 不格好なおむすびには、都さんのあたたかさがギュッと詰まっていたのでしょう。
 そのあたたかさを、先輩は確かに受け取ったのだと思います。

 おむすびが縁を結んだんですよね、彰先輩。

 大切に大切に絆を育ててきたお二人が、ようやく晴れの日を迎えました。
 ずっと見守ってきた私たち友人一同も、心から祝福しています。
 これをもちまして、お二人へのはなむけの言葉といたします。
 どうか末永くお幸せに。



「…由美、これ、本番では読まないよね?」
「まさか!下書きだってば。当日はちゃんと穏当なスピーチを用意してありますって」
「その笑顔が信用ならん」
「だって、都が私に頼むからいけないんでしょ」
「…なんだか由美は健気な女の子で、私が厚かましい女みたいになってない?」
「多少の毒と笑いは必要よ」
「花嫁に、毒も笑いも要らないから!」
「まぁまぁ。とにかくスピーチと、プチギフトのクッキーは私に任せて」
「…お願いします」
「うむ。…結婚式、晴れるといいね」
「晴れるでしょ。私も由美も、生粋の晴れ女だもん」

 


〜禾乃登(こくものすなわちみのる)〜

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稲が黄金色に熟し始める頃です。
家の近くの田んぼの稲穂も、だんだん重たげに垂れてきました。
もうすぐ、もうすぐ嬉しい新米の季節♪
県内の水稲の作況指数は、今までのところは平年並みだそうです。
でも、最近の日照不足が心配です。無事に稲刈りの季節を迎えられますように。

海の旬はイワシなどなど。
山の旬は茄子、スダチなどなど。

人生最後の食事、何がいいですか?という質問、時々ありますよね。
鰻は大好きだし、ウニやイクラがたっぷり乗った丼もいいなぁ。お肉だったら、高級和牛(松坂牛とか飛騨牛とかかしら)のすき焼きがいい。あ、金目鯛の煮付けも食べたいな…。
世の中にご馳走は数多あれど、でも、私は最期には炊きたての新米が食べたいです。
おかずは絶妙な漬かり具合の茄子(塩漬け)。
漬かり過ぎて酸味が出てきたのは駄目です。やや浅漬かりなぐらいの茄子。皮は艶やかな紺色。
水茄子のように皮が柔らかすぎるのはいただけません。噛んだときに、キュッと鳴るぐらいの歯ごたえが大切です。
炊きたてのご飯と茄子の漬物。
そして、可能であればデザートに桃があってほしい。
…となると、秋の初め頃に逝くのがちょうどいいのでしょうか。
食欲もりもりの秋。
理想の最後の晩餐、身近な人に聞いてみると面白いです。
よく行くお店の素敵なバーテンダーさんは「茶碗蒸し!」と即答してくれました。


次回は9月8日「草露白」に更新します。



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by bowww | 2014-09-02 09:04 | 七十二候 | Comments(6)
Commented by 高橋 at 2014-09-03 19:31 x
(どうにも、長いなぁ…5日間とは、こんなにも長いものなのか…)

貴女の次のブログの更新が【9月3日】と、勘違いしていた俺は本日、待ってました!!と、ばかりに、満を持してブログを観ました。
しかし、

あ…更新は昨日だったのか…(´・ω・`)

と知り、
何だか、自分の記憶力やら何やらが怪しい気がしてきました。

空の写真ですか。
俺も空は好きです。
特に夕方が。
なんなんでしょうかね。
空はいいですね。

え~と、
ここからは、小話になります。

あの日は、深夜でした。
もう、これ以上無いって程、仕事で参っていて、その日も、引きずられる様にアパートに向かいました。
(もう駄目だ…。擦り切れて、無くなってしまう…俺が俺でなくなっていく…)

ふと、
アパートの階段の踊り場で振り返り、夜空を眺めました。

月が、綺麗なんです。
とても。

((笑)…月が綺麗…か。そう思えるなら、まだ、俺は大丈夫だな…。感性があるなら、大丈夫…)

なんですかね…。
ただ、ふと、
そんな事を思い出しました…。
Commented by 高橋 at 2014-09-03 19:39 x
「ソレでもやっぱり…月は綺麗だ…」

踊り場で、そう思いました。
Commented by bowww at 2014-09-03 23:32
高橋さま。

わぁ…そんなに待って頂いていたなんて…。
とっても嬉しいです。頑張って書きます♪
現代の暦に置き換えると、二十四節気も七十二候も、少しずつズレが生じてしまいます。
候と候の間は5日間か6日間。
次回は8日なので、6日目に更新ですね。
…実は、この一日の差が大きかったりするのです。
「お、今回はちょっぴり余裕があるぞ、やれやれ…」と(笑)。

どうしようもなく疲れてしまって、へたり込みそうなとき、ほんの些細なことに助けてもらったりしますよね。
月が綺麗な夜で良かった(笑)。
茨木のり子さんの「自分の感受性くらい」という詩をご存知でしょうか。
学校の教科書にも載っているような詩なので、どこかで目にされたこともあるかと思います。
学校で教わったことって、意外と記憶に刻まれているものでして、何かの拍子に、不意に思い出されます。

Commented by bowww at 2014-09-03 23:35
  ぱさぱさに渇いてゆく心を
  ひとのせいにはするな
  みずから水やりを怠っておいて
 
  気難しくなってきたのを
  友人のせいにはするな
  しなやかさを失ったのはどちらなのか
 
  苛立つのを
  近親のせいにはするな
  なにもかも下手だったのはわたくし

  初心消えかかるのを
  暮しのせいにはするな
  そもそもが ひよわな志にすぎなかった

  駄目なことの一切を
  時代のせいにはするな
  わずかに光る尊厳の放棄

  自分の感受性くらい
  自分で守れ
  ばかものよ


時々、自分のへなちょこな心に、捻り込む言葉です。
Commented by 高橋 at 2014-09-05 12:16 x
いい詩ですねぇ…。

何かに対し、
誰かに対し、
自分の心がざわついて来たとき、
この詩を思い出すことにします(笑)
Commented by bowww at 2014-09-05 22:58
高橋さま。

そうは言っても、なにかとパサパサしてしまうんですけれども。。

へたり込んだら、とりあえず体を丸めてじっとしておいて、少しだけ元気が戻ってきたら「自分で守れ ばかものよ」て呟けばいいかな、と思っています(笑)


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