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送る詩

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車で1時間半ほどかけて、桜の名所・高遠に行ってきました。
ほぼ毎年、出掛けます。
花の名所と言われる場所は、行くとがっかり…ということも多いのですが、高遠は別格です。
城址公園に入ると、右を見ても左を見ても見上げても桜・桜・桜!
今年は一番良いタイミングに行けたと思います。
青空を背景に、満開になったばかりのタカトオコヒガンザクラ。
ピンクのグラデーションが、うっとりするほど美しかったです。
桜狂いも、ここを見ればようやく鎮まります。
満腹、満腹。
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今年は桜の開花寸前で雪が降ってみたり、かと思えば夏日に届く程の暖かさになったり、そして一番の見頃には春の嵐が無情にも吹き荒れたりと、本当に気が気ではない花時でした。
いつもなら、市街地の桜が満開になって一日遅れで郊外が見頃、そちらが散り始めれば川のほとりの並木が見事になる…と、「桜の時間割」が決まっているのですが、今年はお天気のせいなのか、どこの桜も咲き急ぐように一斉に満開になってしまいました。
いつもより少しだけ遅いかと思った桜の季節ですが、帳尻を合わせるかのように逃げ去っていきます。
ツバメがやってきました。
桜が散れば田んぼに水が入り始めます。
季節は初夏へと移ろっていきますね。
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今月5日に、詩人の大岡信さんが亡くなりました。
享年86歳。
朝日新聞の1面で連載されていたコラム「折々のうた」が大好きでした。
あんなに小さなコラムの中に、言葉の美しさ、面白さが過不足なく詰め込まれていました。

 神様の楽書(らくがき)として自分を全うしよう  海藤抱壷

中学生の頃だったか、「折々のうた」で紹介されたこの句を読んで、救われた気になりました。
十代にありがちな、つまらない自意識でパンパンになっていた時期です。
作者は昭和15年に結核で亡くなった38歳の自由律俳人。
アホな中学生は、作者本人が置かれていた環境の過酷さになんて思い至らず、ただただ「いいもの見っけた!」と有頂天になっていました。
それでも、あの頃に刻まれた言葉というのはなかなか根深く残るもので、ン十年経った今でも密かな拠り所になっています。
大岡さんの道案内で、豊穰な言葉の世界を少しだけ覗かせてもらいました。
「折々のうた」をまとめた岩波新書は全巻持ってます。
人生の最後が近付いて身辺整理をする時が来ても、この一揃いだけは身近に置いておきたいな、と思います。
大岡信さんの友人・谷川俊太郎さんが朝日新聞に寄せた追悼の詩が、とても瑞々しく美しかったです。

 本当はヒトの言葉で君を送りたくない
 砂浜に寄せては返す波音で
 風にそよぐ木々の葉音で
 君を送りたい

 声と文字に別れを告げて
 君はあっさりと意味を後にした
 朝露と腐葉土と星々と月の
 ヒトの言葉よりも豊かな無言

 今朝のこの青空の下で君を送ろう
 散り初める桜の花びらとともに
 褪せない少女の記憶とともに

 君を春の寝床に誘うものに
 その名を知らずに
 安んじて君を託そう

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by bowww | 2017-04-22 00:50 | 身辺雑記 | Comments(0)

花酔い(穀雨)

 同僚たちと、仕事帰りに夜桜見物へと繰り出した。
 小学校と公園が道を挟んで向かい合わせにある通りは、双方の桜並木が競い合うように満開で、街灯に照らされた艶姿に歓声が上がる。
 けれど、寒い。
 昼間の暖かさに気を許し、薄いコートのまま出掛けてきてしまった。
 桜見物もそこそこに、結局は皆でいつもの居酒屋になだれ込んだ。

 楽しい酒につい羽目を外し、店を出た頃には夜もだいぶ更けていた。
 火照った頬に、冷え冷えとした夜気が心地好い。
 同僚たちと別れ酔いに任せて、人気(ひとけ)が絶えた桜の通りを一人で歩く。
 見上げれば、白々と照る豪奢な花天井。
「贅沢な花見だよな」と思わず頬が緩む。
 視界の隅に、何かが動く気配を捉えて足を止めた。
 ……あれ?子供?小学生?
 今度は頬が強張る。
 数歩先の一際大きな桜の木の下に、子供が二人、立っている。
 こんな夜更けにこんな場所に、子供なんか居るはずがない。
 だとすれば、あれか?この世の者じゃない類いの、あれか?
 酔いは吹っ飛んで、血の気が音を立てて引いていく。
 気づけばもう知らぬふりはできないほど、二人のすぐ近くに居た。
 恐る恐る目を遣る。
 男の子だ。足は一対ずつ、ちゃんとある。
 ようやく大人としての責任を思い出し、「君たちどうしたの?」と声を掛けた。
 二人は、飛び上がって驚いた。
「…このおじさん、僕らが見えるみたいだね」
「酔っ払いだからかな」
「じゃあ、明日には忘れるね」
「うん、忘れるね」
 双子だろうか、そっくりの顔かたちだ。
 額を寄せ合ってひそひそと、なかなか失礼なことを話している。
 一つ咳払いをしてから、もう一度訊く。
「何をしてるの?お家に帰らなきゃ駄目だよ、危ないよ」
 二人は顔を見合わせて、肩をすくめた。
「僕たち、仕事中なんだ」
「おじさんこそ、足元危ないよ」
 それだけ言うと右の男の子は、桜の枝に手を掛けてそっと揺さぶった。
 左の男の子は、一抱えもあるような白磁の壷を、その枝の下に差し伸べた。
「ねぇねぇ、本当に何をしてるの?仕事って何?」
 二人は、うんざりといったふうにこちらを振り返った。
「あのね、おじさん、僕たち忙しいんだ」
「おじさん、早く帰りなよ」
「教えてくれるまで帰らないよ。それに、まだおじさんじゃない」
 二人は同時にため息をついた。
「…どうせ、忘れちゃうだろうから、」
「教えてやって、さっさと帰ってもらおう」
「こんな酒臭いのが側にいて、」
「匂いが移ったら台無しだしね」
 本当に失礼な子供たちだ。

  桜の香りを集めて
  壷に集めて
  お酒を造るんだ
  佐保姫様のお酒を造るんだ
  夜露に濡れた桜の花は
  夜風に冷えた桜の花は
  香りを凝らせて
  色香を凝らせて
  上等なお酒になるんだよ
  とびきりのお酒になるんだよ

 よく見れば、白磁の壷に淡く淡く桜色が滲んでいる。
 喉がごくりと鳴った。
「だめだよ!おじさんにはあげられない」
「…待って」
 壷を隠す男の子を、もう一人が止めて耳打ちした。
 二人は小声で話し合ってから頷いた。
 壷が差し出される。
「ちょっとだけ、」
「飲んでみる?」
 受け止めた壷はひんやりと冷たい。
 再び、喉がごくりと鳴った。


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もうとっくに桜の季節が終わった場所も多いでしょうが、私の住む辺りはようやく散り際です。
飢えたように桜を追いかける季節が終わります。
寂しいような、ホッとしたような…。
2枚目の写真は、サングラス越しの夕日の桜です。いたずらしました。
桜の写真、明日も更新させてください。



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by bowww | 2017-04-20 16:17 | 作り話 | Comments(2)