タグ:フレグランス ( 1 ) タグの人気記事

袖の香(小満)

 洗いたての白いTシャツに袖を通し、着古したデニムを履く。
 鏡を見て、苦笑いが浮かぶ。
 こんなさりげない格好が似合うのは、やっぱり二十代、頑張っても三十代前半までだろう。
 全身の輪郭がぼやけ始めた年代に、洗い晒しのTシャツは下着のようで野暮ったい。
 去年の夏は、もう少しマシに見えたと思ったのだが。
 ため息をついてシャツを脱ぐ。
 せめて、アイロンを当ててパリッとさせよう。
 アイロンを温めている間に霧吹きをする。
 ラベンダーの香りが部屋に広がった。
 不意をつかれて手を止める。
 そういえば娘が、リネンウオーターを買っておいたと言っていたっけ。


 良く晴れて暑いぐらいの高原。埃っぽい道。繋いだ手は暖かく乾いていた。
 要らないと言うのに、「頭痛に効くし、リラックスできるよ」とラベンダーの精油を買ってくれた。
 本や写真、万年筆、指輪。手紙。
 小さなプレゼントをしまっておく箱には、ラベンダースティックも混じっていた。
 開ける度に、日向の花畑のような香りが立ち昇った。
 積もる想いが息苦しく、握られた手を捥ぎ離すようにして別れた。


 窓を開けて風を入れる。
 多少はしゃっきりしたTシャツを、風に晒す。
 リネンウオーターの匂いはすぐに飛んでいった。
 再び袖を通し、いつもより少しだけ多めにトワレを纏う。
 口紅は赤にしよう。


  さつきまつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする  よみ人知らず
  橘のにほふあたりのうたた寝は夢も昔の袖の香ぞする  藤原俊成女(ふじわらのしゅんぜいのむすめ)
 
 
b0314743_07212387.jpg


ラベンダーの香りは、「時をかける少女」でも印象的な小道具になっていましたっけ。
スケッチ作り話、和歌とは真逆の雰囲気になってしまいました。。
本当は、懐かしい恋しい人を、橘の香りで思い出すロマンティックな歌です。
精油はいくつか持っていますが、ラベンダーの香り、実はあまり好きではないのです。
薄荷油は常備しています。
ゴキブリが嫌う匂いだそうなので、薄荷油を振りかけたペーパータオルを、シンク下や床下収納庫、靴箱なんかに入れてあります。
悪魔退散!の、お札みたい。
効果があるのか、今のところ、ゴキさんとは遭遇していません。
薄荷油に、ひのき精油をブレンドしたルームスプレーは重宝しています。


b0314743_07214299.jpg


「香水」は夏の季語ですね。
汗ばむ季節のエチケットだから、ということだそうです。
香水、オードトワレ、オーデコロン。
自分の好きな香りを、そぉ〜っと身につけているのが好きです。
周りの人には分からないくらい、でも、つけ忘れると落ち着かないのです。
どうやら、女っぷりの良い香りよりは、少し中性的な、男性でも女性でも使える香りが好きなようです。

数年前、ちょっとしたことから、グズグズひねくれた気持ちになって、そのまま戻れなくなってしまったことがあります。
どこかで切り替えなきゃ…と、きっかけを探していたときに、おフランスから日本に「上陸」したばかりだというトワレのことを知りました。
東京の百貨店のキラキラとしたフレグランス売り場に行って、ドキドキしながらその香りを試させてもらいました。
(一流の百貨店の店員さんは、田舎者でも優しく接してくださる…)
一嗅ぎ惚れ。
30分ほど、別の売り場を回って考えてから、そのトワレを買いました。
我ながら、背伸びも背伸び、足裏が攣りそうなぐらいの背伸びをして手に入れた香りです。
分不相応ではあるのだけれど、このトワレを纏うと否応なく背筋が伸びました。
毎日こっそり身につけているうちに、グズグズした気持ちもいつの間にか薄らいでいました。
今でも自分に喝を入れたいときには、この香りに助けてもらいます。
「普遍なる水」という名前のトワレ自体は、柑橘系をベースにした凛々しくも軽やかな香りです。


b0314743_10213147.jpg


ニセアカシアの花が満開です。
夜気に、甘い香りが混じります。
昨日、今日と真夏日になりました。
このまま夏本番になってしまうんじゃないかと心配です。
過ごしやすい季節は、本当に短いですね。

[PR]
by bowww | 2017-05-21 22:40 | 身辺雑記 | Comments(2)