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空をゆく

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自分のブログを読み返してみれば、立春の頃から「桜、さくら、サクラ…」と譫言のように呟き続けていたようです。
我ながらしつこい…。
ここ数年は沈静化していた桜狂いも、今年はぶり返してしまいました。
通り過ぎていく桜に追い縋って惚けてきました。
本当に地元の皆さんしか行かないような(でも、ちゃんと提灯はぶら下がっている)広場の桜。
もう散り際で、風が吹く度にハラハラと花びらを散らしていました。
付き合ってくれた母が、枝を揺すって喜んでいました。
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 空をゆく一とかたまりの花吹雪 高野素十


今夜は雨が降っています。
土を緑を養う春の雨。
芽吹いたばかりの薮に、山吹が鮮やかな花を咲かせ始めました。
桜浮かれの熱を冷ましてくれるような清冽さです。
春を送り、夏の準備をしなくては。

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by bowww | 2017-04-26 23:34 | 身辺雑記 | Comments(0)

送る詩

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車で1時間半ほどかけて、桜の名所・高遠に行ってきました。
ほぼ毎年、出掛けます。
花の名所と言われる場所は、行くとがっかり…ということも多いのですが、高遠は別格です。
城址公園に入ると、右を見ても左を見ても見上げても桜・桜・桜!
今年は一番良いタイミングに行けたと思います。
青空を背景に、満開になったばかりのタカトオコヒガンザクラ。
ピンクのグラデーションが、うっとりするほど美しかったです。
桜狂いも、ここを見ればようやく鎮まります。
満腹、満腹。
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今年は桜の開花寸前で雪が降ってみたり、かと思えば夏日に届く程の暖かさになったり、そして一番の見頃には春の嵐が無情にも吹き荒れたりと、本当に気が気ではない花時でした。
いつもなら、市街地の桜が満開になって一日遅れで郊外が見頃、そちらが散り始めれば川のほとりの並木が見事になる…と、「桜の時間割」が決まっているのですが、今年はお天気のせいなのか、どこの桜も咲き急ぐように一斉に満開になってしまいました。
いつもより少しだけ遅いかと思った桜の季節ですが、帳尻を合わせるかのように逃げ去っていきます。
ツバメがやってきました。
桜が散れば田んぼに水が入り始めます。
季節は初夏へと移ろっていきますね。
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今月5日に、詩人の大岡信さんが亡くなりました。
享年86歳。
朝日新聞の1面で連載されていたコラム「折々のうた」が大好きでした。
あんなに小さなコラムの中に、言葉の美しさ、面白さが過不足なく詰め込まれていました。

 神様の楽書(らくがき)として自分を全うしよう  海藤抱壷

中学生の頃だったか、「折々のうた」で紹介されたこの句を読んで、救われた気になりました。
十代にありがちな、つまらない自意識でパンパンになっていた時期です。
作者は昭和15年に結核で亡くなった38歳の自由律俳人。
アホな中学生は、作者本人が置かれていた環境の過酷さになんて思い至らず、ただただ「いいもの見っけた!」と有頂天になっていました。
それでも、あの頃に刻まれた言葉というのはなかなか根深く残るもので、ン十年経った今でも密かな拠り所になっています。
大岡さんの道案内で、豊穰な言葉の世界を少しだけ覗かせてもらいました。
「折々のうた」をまとめた岩波新書は全巻持ってます。
人生の最後が近付いて身辺整理をする時が来ても、この一揃いだけは身近に置いておきたいな、と思います。
大岡信さんの友人・谷川俊太郎さんが朝日新聞に寄せた追悼の詩が、とても瑞々しく美しかったです。

 本当はヒトの言葉で君を送りたくない
 砂浜に寄せては返す波音で
 風にそよぐ木々の葉音で
 君を送りたい

 声と文字に別れを告げて
 君はあっさりと意味を後にした
 朝露と腐葉土と星々と月の
 ヒトの言葉よりも豊かな無言

 今朝のこの青空の下で君を送ろう
 散り初める桜の花びらとともに
 褪せない少女の記憶とともに

 君を春の寝床に誘うものに
 その名を知らずに
 安んじて君を託そう

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by bowww | 2017-04-22 00:50 | 身辺雑記 | Comments(0)

花酔い(穀雨)

 同僚たちと、仕事帰りに夜桜見物へと繰り出した。
 小学校と公園が道を挟んで向かい合わせにある通りは、双方の桜並木が競い合うように満開で、街灯に照らされた艶姿に歓声が上がる。
 けれど、寒い。
 昼間の暖かさに気を許し、薄いコートのまま出掛けてきてしまった。
 桜見物もそこそこに、結局は皆でいつもの居酒屋になだれ込んだ。

 楽しい酒につい羽目を外し、店を出た頃には夜もだいぶ更けていた。
 火照った頬に、冷え冷えとした夜気が心地好い。
 同僚たちと別れ酔いに任せて、人気(ひとけ)が絶えた桜の通りを一人で歩く。
 見上げれば、白々と照る豪奢な花天井。
「贅沢な花見だよな」と思わず頬が緩む。
 視界の隅に、何かが動く気配を捉えて足を止めた。
 ……あれ?子供?小学生?
 今度は頬が強張る。
 数歩先の一際大きな桜の木の下に、子供が二人、立っている。
 こんな夜更けにこんな場所に、子供なんか居るはずがない。
 だとすれば、あれか?この世の者じゃない類いの、あれか?
 酔いは吹っ飛んで、血の気が音を立てて引いていく。
 気づけばもう知らぬふりはできないほど、二人のすぐ近くに居た。
 恐る恐る目を遣る。
 男の子だ。足は一対ずつ、ちゃんとある。
 ようやく大人としての責任を思い出し、「君たちどうしたの?」と声を掛けた。
 二人は、飛び上がって驚いた。
「…このおじさん、僕らが見えるみたいだね」
「酔っ払いだからかな」
「じゃあ、明日には忘れるね」
「うん、忘れるね」
 双子だろうか、そっくりの顔かたちだ。
 額を寄せ合ってひそひそと、なかなか失礼なことを話している。
 一つ咳払いをしてから、もう一度訊く。
「何をしてるの?お家に帰らなきゃ駄目だよ、危ないよ」
 二人は顔を見合わせて、肩をすくめた。
「僕たち、仕事中なんだ」
「おじさんこそ、足元危ないよ」
 それだけ言うと右の男の子は、桜の枝に手を掛けてそっと揺さぶった。
 左の男の子は、一抱えもあるような白磁の壷を、その枝の下に差し伸べた。
「ねぇねぇ、本当に何をしてるの?仕事って何?」
 二人は、うんざりといったふうにこちらを振り返った。
「あのね、おじさん、僕たち忙しいんだ」
「おじさん、早く帰りなよ」
「教えてくれるまで帰らないよ。それに、まだおじさんじゃない」
 二人は同時にため息をついた。
「…どうせ、忘れちゃうだろうから、」
「教えてやって、さっさと帰ってもらおう」
「こんな酒臭いのが側にいて、」
「匂いが移ったら台無しだしね」
 本当に失礼な子供たちだ。

  桜の香りを集めて
  壷に集めて
  お酒を造るんだ
  佐保姫様のお酒を造るんだ
  夜露に濡れた桜の花は
  夜風に冷えた桜の花は
  香りを凝らせて
  色香を凝らせて
  上等なお酒になるんだよ
  とびきりのお酒になるんだよ

 よく見れば、白磁の壷に淡く淡く桜色が滲んでいる。
 喉がごくりと鳴った。
「だめだよ!おじさんにはあげられない」
「…待って」
 壷を隠す男の子を、もう一人が止めて耳打ちした。
 二人は小声で話し合ってから頷いた。
 壷が差し出される。
「ちょっとだけ、」
「飲んでみる?」
 受け止めた壷はひんやりと冷たい。
 再び、喉がごくりと鳴った。


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もうとっくに桜の季節が終わった場所も多いでしょうが、私の住む辺りはようやく散り際です。
飢えたように桜を追いかける季節が終わります。
寂しいような、ホッとしたような…。
2枚目の写真は、サングラス越しの夕日の桜です。いたずらしました。
桜の写真、明日も更新させてください。



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by bowww | 2017-04-20 16:17 | 作り話 | Comments(2)

漂流郵便局

高校時代からの一番の友人とは、今も手紙のやり取りをしています。
高校生の頃は、ありったけ一緒に遊んだ上にまだ喋り足りなくて、ほぼ毎日、手紙を交換していました。
今の子供たちなら、LINEでしょうか?
(ちなみに、私自身は未だに、LINEもその他のSNSも使いこなせないアナログ人間。。)
友人は絵が上手でセンスが良いので、いつも思わずニンマリしちゃうようなイラスト入りの手紙が届きます。
一方の私は絵心もセンスも皆無。でも、話したいことはあの頃とほとんど変わりないので、字ばっかりのボテボテ分厚い手紙を送りつけるのです。
(ブログも、やたらめったら長いですよね。。)
嫌がらずに読んでくれる、友人の変わらぬ優しさに感謝です。
「清明〜その2〜」の写真に写っているペーパーナイフは、その友人と鎌倉旅行に行った折、アンティーク屋さんで見つけたもの。
高校生にとっては高価な買い物でしたが、刃の表面の素朴で美しい細工に一目惚れしてしまったのです。
宝物の一つです。

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斎藤史の短歌が心に引っかかっていて、それから作り話が書けないかな、と考えていたところ、ネットのニュースで「漂流郵便局」の話題を目にしました。
瀬戸内海・粟島漂流郵便局。
届く筈のない相手への手紙を、代わりに預かってくれる郵便局。
もともとは、瀬戸内国際美術祭で現代アーティストの女性が作品として立ち上げたプロジェクトでしたが、反響が大きかったことと、「臨時局長」を任命された男性が受け継ぎたいと申し出たことで、今でも手紙を受け付けているそうです。
自分で書くとしたら、誰宛てにしよう。
私を可愛がってくれた祖父母や伯父伯母に、「お元気ですか」と送ってみたい。
昔お付き合いした方々には……いや、まぁ、特に言いたいことはないな。
…なんて、ちょっと楽しく想像しました。

昨年のちょうど今日、大切な方が亡くなりました。
その方へ手紙を…と思いかけたのですが、なんだかちょっと違う。
郵便局に預かってもらうだけじゃ、駄目なんです。
お返事はなくてもいいから、絶対確実に届いてほしい。
心から感謝していて、それを直接お伝えする術がなくて、一年たった今も途方に暮れているんだということを、どうにか伝えたい。
そんなことを思っていたら、「春風郵便局のハルばあさん」の話ができました。
残されたご家族の元へ、優しい花の風の便りが届くといいなと祈っています。

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急に暖かくなって、桜の蕾が一気にぷぅぅっと膨れています。
お花見の予定が狂ってしまう!
春はとにかく、気もそぞろです。



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by bowww | 2017-04-06 12:03 | 身辺雑記 | Comments(0)

清明その2、更新しました

下書きして保存しておいたためか、更新しても「新着記事」にならないようで、順番がおかしくなってしまいました。
最初に保存した時間が反映されるようですね。
よろしければ、こちらから…と、リンクさせようとしたのに、成功せず…。。
アプリ、意外と使いにくいですね。
お手数ですが、記事一覧から「その2」をご覧くださいませ。

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by bowww | 2017-04-05 15:13 | Comments(0)

磨いて待たう(清明)〜その1〜

 町外れの、もう廃止されたはずの簡易郵便局の屋根に、古ぼけた風見鶏が取り付けられました。
 日光や雨風に晒された看板が戸口に立てかけられ、近付いてよくよく見れば『春風郵便局』と読めます。
 町の人たちは慣れたもので、看板をちらりと横目で見ては「ああ、今年もそんな季節だね」と言うのです。
 春だけ開かれる郵便局の局長はハルばあさん。
 本名なのか郵便局の名前から取った愛称なのか、誰も知りません。
 頭のてっぺんで丸めた髪は真っ白で、腰はすっかり曲がっています。
 お客さんがやってくると、大きな目をぎょろりとさせます。
 小さな子供たちが初めてハルばあさんを見ると、お伽噺に出てくる魔女を思い出して泣き出しそうになります。
 それでも、期間限定の春風郵便局にはお客さんが絶えません。
 実はこの郵便局には、伝えたい想いを絶対確実に相手に届けてくれる葉書があるのです。
 想いを書き留めた葉書は、風が運んでくれます。
「春は四方八方から風が吹くからね。好都合ってことさ」
 だから、春風郵便局。
「葉書に書けるのはカタカナ十文字まで。それ以上だと重たくなって、風じゃ運びきれないよ」
 その葉書が一枚千円。
 ボロ儲けじゃないかと陰口を叩く人もいましたが、ハルばあさんは気にしません。
「春は短いんだ。稼がないとね」
 にやりと笑います。
 なるほど、魔女そっくりです。

 高校二年生の陽菜(ひな)ちゃんは、埃っぽい南風が吹く朝、郵便局にやってきました。
 頬を真っ赤に染めて、緊張した様子で千円札を取り出します。
 ハルばあさんは「ほいほい」と葉書を一枚、陽菜ちゃんに渡しました。
「そこにある色鉛筆でね。カタカナ十文字までだよ」
 陽菜ちゃんは少し迷って水色の鉛筆を手に取ると、より一層、頬を赤くしました。
 葉書の隅っこに小さな字で
『ズット ダイスキデシタ』と書き記しました。
 卒業して遠くの大学へ行ってしまう先輩宛てです。
「…お願いします」
「ほいほい。確かにお預かり」
 ハルばあさんは葉書をエプロンのポケットに仕舞いました。
 陽菜ちゃんは気が気ではありません。
「あの…本当に届くんでしょうか?」
 ハルばあさんは、じろりと陽菜ちゃんの顔を見返します。
「南風は昼近くなればもっと強くなるのさ。もうちょっとお待ち」
 陽菜ちゃんは黙るしかありません。
「先輩って人は男前かい?」
 陽菜ちゃんは、こくりと頷きます。
「ふぅん。さてはスポーツができて優しくて、皆の人気者だろ?」
 陽菜ちゃんは項垂れてしまいました。
 私なんか、先輩に釣り合うわけがない。告白なんて、とんでもない。
 だからせめて、好きだったとだけ伝えたい。
「でもねぇ、そんな人気者なら、届いた『ダイスキデシタ』は誰からのか分からないんじゃないのかい?」
 ハルばあさんは表に出て、風見鶏を見上げました。
「うん、こんなもんだね」と呟くと、ポケットから取り出した葉書を、ツイッと放り上げます。
 一際強く吹いた風が、白い葉書をひらりと攫っていきました。
 陽菜ちゃんも空を見上げます。
「ほら!ぼーっとしてない!命短し恋せよ乙女!」
 ハルばあさんが陽菜ちゃんのお尻を叩きました。
 陽菜ちゃんは、なんだか分からないまま駆け出しました。
 今ならまだ、先輩は駅に居るはずです。
 
 史郎さんが春風郵便局に飛び込んだのは、北風が吹きつける午後でした。
 冬に戻ったような寒さです。
「葉書一枚!」
 史郎さんは、カウンターにバンッと千円札を叩き付けました。
 ハルばあさんがじろりと史郎さんを見上げます。
 葉書を「ほれ」と渡しました。
 史郎さんは黒鉛筆で、ぐいぐいと書き始めました。
 どうやら職場の課長宛てのようです。
『クソッタレ シン…』
「お前さん、人を呪わば…って言葉知ってるかい?ほどほどにしとくこった」
 史郎さんはハルばあさんを睨みつけました。
 …が、眼力でハルばあさんに勝てるわけがありません。
 苛立たしげに、書きかけた後ろ半分に線を引くと、『ハゲチマエ』と書き直しました。
 ハルばあさんは、「やれやれ…。まぁ、仕方がないね、お預かり」と葉書を受け取りました。
 吹き荒れる北風は、ハルばあさんの手から葉書をもぎ取っていきました。
「で、お前さんの上司は禿げそうなのかい?」
「…てっぺんが結構、やばいです」
 課長はトイレの鏡の前で、時々、不安そうに髪を撫で付けています。
 その貴重な髪がゾクゾクと抜け始めたら、さぞかし慌てふためくだろうと想像すると、史郎さんの気持ちは少し晴れました。
「それにしても、そんなに嫌いな奴の下で働いてると、今にかお前さんも禿げそうだね」
 史郎さんは、思わず自分の頭を撫で付けました。


【…続きます】

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長くなりました。まだ半分。
残りは明日、更新します。
そして写真は、その場しのぎで昨年の桜です。手抜きでごめんなさい。
本当はまだ、蕾の状態です。今年は少し遅そうです。
それにしても、咲きたてほやほやのソメイヨシノは、こんなにもピンクが濃いんですよね。


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by bowww | 2017-04-04 11:47 | 身辺雑記 | Comments(0)

磨いて待たう(清明)〜その2〜

 東からの風は、微かに花の匂いを含んでいます。
 薬屋のコウちゃんは幼稚園に通う男の子です。
「ハルばあさん、葉書をください」
「ほいほい。お金は持ってるかい?」
 ハルばあさんは、幼稚園児といえど容赦はありません。
「うん!あるよ!」
 コウちゃんは背伸びすると、握り締めていた百円玉を三枚、カウンターに並べました。
「お年玉取っておいたの」
「…これなら、三文字分だね」
 無邪気なコウちゃんの笑顔にも、ハルばあさんは負けません。
「うん、いいの。三文字だけ、書く」
 コウちゃんはオレンジ色の色鉛筆を選ぶと、ハルばあさんに訊ねます。
「『あ』と『そ』と『ぼ』って、どうやって書くの?」
「やれやれ、字も書けないのに来たのかい」
 ハルばあさんは仕方がなく、お手本で「アソボ」と書いてやりました。
「ほら、これを見て書きな」
 コウちゃんは鉛筆を握り締めて、一生懸命、書き写します。
「違う違う、それじゃ『リ』になっちまう。点はもっと左…そっちの点じゃなくて!」
 結局はハルばあさんがコウちゃんの右手に自分の手を添えて、やっとのことで書き上げました。
 郵便局の風見鶏が、パタパタと揺れています。
 東風は葉書を受け取ると、コウちゃんが通う幼稚園の方へピュッと去っていきました。
 ハルばあさんは、曲がった腰をとんとんと叩き「やれやれ」とため息をつきました。
 コウちゃんは満面の笑みです。
「お前さん、友達がいないのかね?」
 コウちゃんは途端にしゅんとしてしまいました。
 ハルばあさんは、「ふん」と鼻で笑いました。
「『アソボ』は届いてるんだから、あとはお前さん次第さね。友達に会ったら、おっきな声で『おはよ!』って言ってごらん。お腹に力が入れば怖いものなんかなくなるさ」
 コウちゃんの笑顔、復活です。
「ハルばあさん、ありがとう!ハルばあさんは、きっと良い魔女だね!」
 手を振るコウちゃんに、ハルばあさんは力なく手を振り返しました。

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 中学生の智己君は喧嘩したお母さん宛てに『ベントウ ウマカッタヨ』、八百屋の仁さんは行方不明になった猫宛てに『マッテルゾ スグカエレ』、小学1年生の大樹くんは泣かせてしまった大好きなリカちゃん宛てに『モウシナイヨ ゴメンネ』。
 それぞれ風に託して送りました。
 夕子さんが春風郵便局を訪れたのは、桜の蕾がだいぶ膨らんだ穏やかな日でした。
 ハルばあさんはちらりと夕子さんを見ました。
 菫色のカーディガンを羽織った夕子さんは、去年の春に比べてだいぶ痩せています。以前はお日さまのような笑顔が可愛らしい女性だったのです。
 夕子さんは去年の秋、結婚を約束した彼を見送りました。夏の初めに見つかった病気が、あっという間に彼を連れ去ってしまったのです。
「葉書を一枚」
 夕子さんは藍色の鉛筆を取り、葉書を前に暫く考え込みました。
 そしてゆっくりと、『アイタイ アイタイ アイ…』と書きました。
「…足りないわ」
 困ったように微笑む夕子さんを、ハルばあさんは黙って見つめました。
「…やれやれ。一文字百円ずつ、追加料金を頂くよ」
「ありがとう!」
 夕子さんはまた少し考えてから、『…シテル』と書き足しました。
「ほい、お預かり。追加三百円」
 ハルばあさんは葉書と小銭を受け取ると、夕子さんを連れて外に出ました。
 霞がかった空はどこまでも穏やかで、風はまったくありません。これでは葉書が飛び立てません。
 夕子さんは心配そうに、ハルばあさんの顔を覗き込みました。
「やれやれ、今日が今季最後だから、大サービスさね」
 ハルばあさんは空に向かって手招きしました。
 すると、空の高い場所で機嫌良く歌っていた一羽の雲雀が、「チチッピー」と返事をするように一声鳴いて、二人の元に舞い降りたのです。
「ご苦労だけどね、この葉書を届けておくれ」
 雲雀は両足で葉書を掴むと、再び高く高く、天上を目指しました。
 すぐに姿は見えなくなりましたが、囀りだけはいつまでも降るように聞こえてきました。

 翌朝、夕子さんが家のポストを覗くと、白い葉書がありました。
『ソバニイル ナカナイデ』
 恐る恐る手に取り、読み返します。
『ソバニイル ナカナイデ』
 葉書は次の瞬間、はらはらと零れ落ちました。
 夕子さんの手のひらには、桜の花びらが数枚、残されました。
「大サービスさね」
 ハルばあさんの声が聞こえた気がします。

 桜が咲けば、春風郵便局は今季の営業終了。
 来年の春まで、長いお休みに入ります。


  白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう  斎藤 史


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長い!長過ぎる!
明日、ちょっとだけ更新します。

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by bowww | 2017-04-04 03:31 | 作り話 | Comments(0)