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二つの展覧会 (夏至)

作り話は暫く放置。
細々と身近な出来事を書けたらいいな、と思っています。
今回は4〜5月にかけて足を運んだ展覧会のお話です。
…タイミングを全く逸してしまったのはご容赦ください。。


まずは5月に伺った写真のグループ展。
「自由な発表 ゆたかな交流」と銘打ち、11人の方々が作品を持ち寄って開く「我風展」です。
今年で4回目、回を重ねるごとに参加者が増え、内容もより一層豊かになっていくようです。
モノクロ、カラー、人物、風景、静物…と、テーマもテクニックも多種多彩。
主宰は、こちらでご縁を頂いたhiyoさん。
hiyoさんの求心力の賜物だと思うのですが、これだけ個性豊かな方々の集まりなのに、印象がガチャガチャとならないのです。
作品たちが、互いを尊重し合いながらも、伸び伸びと楽しくお喋りしているような雰囲気。
作者の皆さんが日替わりで会場に居られて、来場者とコミュニケーションを取られていたせいもあるとは思うのですが、閉じられていない風通しの良さを感じました。
職場の同僚が二人参加していて、彼と彼女の「素の部分」を覗き見るというちょっと悪趣味なワクワクも楽しみました。
そしてもちろん、hiyoさんとお会いできることもワクワク。
今年も素敵な笑顔と、あたたかな言葉のパワーをプレゼントして頂きました。
来年の我風展の進化が今から楽しみです。
hiyoさんが丁寧に書かれた我風展レポートはこちらです→我風展オフィシャルサイト

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そして4月の末に母を連れて行ったのが、猛烈な人出で話題になった「生誕300年 若冲展」(於・東京都美術館)です。
週末や会期末になると、会場に入るまで3〜5時間、会場内は殺気立つほどの混雑だったようです。
私は始まって一週間の平日、午後2時過ぎを狙って行ったため、40分程度で入場できましたが、それでもかなりな賑わいでした。
お目当ての絵の近くになんて、なかなか寄れません。
で。
上野駅に着いたらすぐ、近くのヨドバシカメラに飛び込み双眼鏡を買いました。
単眼鏡レベルの焦点距離50センチ〜という優れもの(予め調べていったのです)。
展示会場で双眼鏡なんて…と思うなかれ、若冲の超絶技巧をこの目で確かめたいじゃないですか。
結果、大混雑の中で私なんぞを気にかける人なんていませんし、数多の頭越しでもちゃんと超微細な筆跡を観察することができて大満足。
これからは美術展のお供にしようと思います。
さて、展示内容。
若冲の絵を見ると、どういうわけだか嬉しくてたまらなくなるのです。
今回の目玉は、なんといっても「動植綵絵」30幅と「釈迦三尊像」3幅が一堂に会するという豪華絢爛な展示室。
難しいことは抜きにして、そこに居るだけで、ただただ美しいもののパワーに打ちのめされます。
たぶん私が展示会に行くのは、「もの凄いもの(美とか技法とか作者の思いとか…)」に、完膚なきまでに圧倒される快感を味わうためなのだと思います。
ミーハーな鑑賞者ですが、行って良かった。

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ふと、色々な場面で「あれ(あの人)は嫌い、これは趣味じゃない、それは興味ない」と決めつけていることに気がつきました。
若い頃はそんな心の動きを、何か価値のある「こだわり」と思い込んでいました。
でも、そんなこだわりは自分を狭めてしまうだけですね。
トシを取れば取るほど、心はゴワゴワ強張ってしまいます。
食わず嫌いは損。
肝に銘じて、今までは見向きもしなかった(もしくは見ぬフリをしてきた)ことも面白がりながら齧ってみたいと思います。

…でも、最終的には「夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり(三橋鷹女)」ですけれど。



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by bowww | 2016-06-21 11:04 | 身辺雑記 | Comments(2)

芒種

 璃子の宝物は、ディズニーランドで買ってもらったクッキーの空き缶に入っています。
 澄んだ空のような青い地に、チョコレート色のミッキーマウスのシルエットが描かれています。
 本当は、たくさんのキャラクターたちが踊っているピンクの缶が欲しかったのですが、お母さんは「青い方が断然素敵」と、きっぱり宣言したのです。
 お母さんの「断然」は絶対です。
「璃子には断然、紺色のブラウスが似合う」「お母さんは断然、モンブランが好き」「お父さんは断然、休みを取るべきです」などなど。
 「断然」が出たら、誰も敵いません。
 実際のところ、今では小学生になった璃子も、この青い缶が「大人っぽくてちょっといいかも」と思っています。
 さて、肝心な中身。
 幼稚園で一番仲が良かった珠里ちゃんからもらった手紙(「ずっと なかよしでいてね」と書いてあります)。大好きな従姉妹のお姉さんからもらった白いレースのハンカチ。去年の夏、海で拾ったピンク色の貝殻と青いガラスの欠片。くまのプーさんのレターセット、シール付き(これで珠里ちゃんに手紙を書きました)。ピアノの発表会で髪を結んだ薔薇色のシフォンのリボン。
 そして箱の隅っこには、茶色のしわくちゃな種が三つ転がっています。
 箱を動かす度にカタカタ鳴ります。
「璃子、これは何?」
 璃子と一緒に箱を覗き込んだお母さんが言いました。
「梅の種だよ。梅干しと、梅漬けの。おばあちゃん家で食べたの」
 璃子はまだ小学一年生なのに、おばあちゃんの梅干しと梅漬けが好きなのです。
 特に、甘い梅漬けは大好物です。
「…どうするの?」
「これを植木鉢に蒔いてね、梅の木にするの。
 お花が咲くでしょ?もっと大きくなれば実がなるでしょ?
 そしたら、おばあちゃんに甘い梅漬けをいっぱい作ってもらうつもりだったの」
 璃子は俯いてしまいました。
 おばあちゃんは去年の秋、お友達と行った温泉で亡くなってしまったのです。
 夏休みに会いに行ったときは、とても元気だったのに。
 お母さんは璃子の頭をそっと撫でました。
 梅干しの種では芽が出ないなんて、とても言い出せませんでした。

 璃子のお母さんの大切なものは、学生時代に鎌倉の骨董屋さんで見つけたシェーカーボックスに入っています。
 日本の曲げわっぱによく似た楕円形の木の箱は、古びて飴色になっています。
 学生にはちょっと高価でしたが、「これは断然素敵」と一目惚れして手に入れた箱です。
 さて、中身。
 ガラス細工の小鳥、プレゼントでもらったネックレスや結婚指輪(アクセサリーをいつも身につけているのは苦手なのです)、璃子が初めてプレゼントしてくれた紙のカーネーション、裏に象眼でスズランの絵が施されている小さな銀色の手鏡。
 お母さんは手鏡を取り出してため息をつきました。
 お母さんが子供の頃、お母さんのお母さん、璃子のおばあちゃんに、おねだりして譲ってもらった鏡です。
 去年の夏、璃子を連れて実家に帰ったとき、些細なことからおばあちゃんと喧嘩をしてしまいました。
 「似た者母娘」と言われる二人は、言い出したら聞かないところもそっくりです。
 謝るきっかけを見つけられず、それでも次に会ったときには何でもなかったように話せると思っていたのです。
 結局、仲直りできないまま、おばあちゃんは不意に居なくなってしまいました。
 鏡を覗けば、おばあちゃんに益々似てきた顔が、への字口で見返してきます。
「ごめんね…」
 ごめんなさいもありがとうも、もう届きません。

 璃子のおばあちゃんの宝物入れは、小さな漆塗りのお弁当箱でした。
 おばあちゃんが残した物を整理していたおじいちゃんが、「こんなものがあったよ」と持って来てくれたのです。
「お父さん、開けてみたの?」
「うん、開けてはみたけど、なんだか俺よりお前が見る方がいい気がしてな」
 お母さんは、そっと箱の蓋を開けました。
 璃子もお母さんの手元を覗き込みます。
 さて、中身。
 古い古い絵はがき(おばあちゃんのお父さんとお母さんからでした)、古い手紙(おじいちゃんからおばあちゃんへ)、璃子の赤ちゃんの頃の写真、結婚指輪、空っぽの香水瓶。
「…これ、私が昔あげたトワレだ」
 お母さんが初めてのお給料で買ってあげたプレゼントです。
「まだいい匂いがするね」
 璃子は瓶をくんくん嗅いで言いました。
「お前が預かっておいてくれ」
 ただし、こいつだけは勘弁と、おじいちゃんは自分が書いた手紙を素早く抜き出しました。
「そうだそうだ、冷蔵庫からはこんなものが出てきたぞ」
 種です。
 硬い殻が割れて青白い芽が伸びています。
「もしかして、梅?」
「ああ。璃子がえらく梅漬けを気に入ってただろ?
 母さん、庭の梅の実で熟したやつを拾っておいたんだよ。『璃子と一緒に蒔いて、璃子の梅の木にしてあげるの』って言ってたから、きっとこれがその種だと思うよ」

「璃子、そんなに大きな鉢に植えるの?」
「だって、大きな木にするんだもん」
「…ということは、俺はいずれ庭付きの家を買わなきゃいけなくなるんだな」
 璃子のお父さんは、やれやれと背伸びして笑いました。
 三つの梅の種は、ふかふかの土に具合よく収まりました。
 梅干しと梅漬けの種は、璃子の宝物と一緒に青い缶の中に転がっています。



芒種=6月5日〜21日頃
初候・蟷螂生(かまきりしょうず)次候・腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)末候・梅子黄(うめのみきばむ)


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麦秋は本当は小満の末候ですね。写真、ちょっとだけ季節外れ。
今年も金色の麦畑にうっとりしています。
そんな麦畑や早苗田の上を、ツバメたちが艶やかな黒い羽を閃かせて盛んに飛び交っています。
梅雨入り直前の本当に美しい季節。


さて、二十四節気に合わせて書いてきた作り話、一年ぐるりと巡りましたので、ひとまずこれにてお休みします。
私の頭の中の引き出しの一つは、ちょうど璃子ちゃんの宝物箱みたいなものだと思います。
他の人から見ればガラクタの山ですが、本人にとってはどれも大切な宝物。
その中を引っ掻き回して材料を探して、作り話に仕立て上げて…。
読んで頂くだけでも嬉しいのに、「イイネ」や時々頂くコメントに、毎回舞い上がっておりました。
本当にありがとうございました。
当分の間は、また宝物(ガラクタともいう)探しに専念したいと思います。
今はモリモリ本を読んで、展覧会に行って、映画を観て、人に会って、ありったけインプットしたい。
充電して、次の立春を目処に作り話を更新できたら…と。
それまでは皆様のブログを拝読して、二十四節気の節目ごとに身の回りのことなど書けたらいいな、と思っています。
これからも、お付き合い頂ければ幸いです。



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by bowww | 2016-06-05 09:22 | 作り話 | Comments(8)