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言葉のこと

にょっぽりと昇ったお月様が綺麗だったので、iPhoneで。
粒子が荒くてザラザラ、わら半紙に刷った出来の悪い版画みたいですね。
満月には少し間があるけれど光量は十分のようで、夜になると、雪が残る遠くの山々が青く浮かび上がり、とても綺麗です。
空気が澄んでいる分だけ、明日の朝は冷え込みそうです。


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口を開けば誰かの批判、それも我ながら惚れ惚れするほど切れがいい。バシッと決まる。
…自分がそんな状態のときは要注意です。
人の粗にばかり気が向くから自身のことがお留守になります。
何か恥ずかしいミスを仕出かしたりして、消え入りたい気持ちになります。
誰かに向けた批判・悪口が、ぐるっと回って自分に返ってくるんですね。

「ドウセ…」「メンドクサ…」「ナンデジブンバカリ…」という言葉が、胸の中でグルグルし始めるのもよくありません。
うっかり声に出してしまったら最後、心張り棒がぐにゃりとへしゃげます。
ずぶずぶと自虐の沼に沈み込んでいくのは、いっそ快感でもあります。
でも、沈むのは簡単だけど、抜け出るのはどれだけ大変か。
こんな言葉を呟くぐらいなら、「コンチキショ!」と叫ぶ方がマシです。

悪口も噂話も「ドウセ…」という独り言も、溜め込むよりは小出しに吐き出す方が良いに決まっています。
ストレスは少しずつ解消していかなくては。
でも、つまらない言葉ばかり使っていると、その言葉が本人を害し始めます。
言葉で自家中毒を起こすようなものですね。
批判したくてウズウズしている口を、ぐっと真一文字に閉める。
情けない独り言を、ごくんと飲み込む。
せめて聞いた相手が笑ってくれる言葉に置き換えられるまで、少しは黙っていなさい。コブシの蕾を見習いなさい。
と、自分に言い聞かせます。
…ただ、コブシの蕾は愛らしいけど、いいトシをした大人の女が(つまりはおばさんが…)、口を真一文字にして働いていると、周りを怖がらせてしまうだけだったりもして加減がムツカシイのであります。


…なんてことを考えながら、雨水の作り話を書き上げました。
次回の作り話は3月5日「啓蟄」に更新します。

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by bowww | 2016-02-22 00:44 | 思ったこと考えたこと | Comments(0)

雨水

 目が覚めて、朝食を食べて、メイクをして着替えて会社に向かう。
 ニュースや天気予報は、通勤途中にスマホでチェックする。
 朝の満員電車の中では誰も喋らない。車両の隅に陣取った高校生グループも、時々笑い声を漏らす程度だ。
 駅で降りて改札口を抜けて、いつものように雑踏に紛れ込む。
 ふと、おかしなことに気がついた。
 ざわめきに耳を澄ませて聴き取ろうとしても、その「音」の意味を拾い損ねる。
 聞いたこともない異国の言葉に囲まれたのかと、呆然と立ち尽くし、辺りを見回す。
 でもそこは、見慣れた街の風景。
 看板や標識、新聞や雑誌に商品のパッケージ、文字は読める。理解できる。
 それなのに、隣のサラリーマンたちの会話がさっぱり分からない。
 軽いパニックになって、人混みを離れてビルの壁に寄りかかった。
 スマホの画面の文字は問題なく読める。
 動画サイトを適当に開き、お笑い芸人のコントを再生してみる。
 分からない。何かの動物の鳴き声を聞いているようだ。
 耳か脳みその変換機能が、おかしくなってしまったのだろうか。

『身体的なトラブルではないとすれば、やはりストレスでしょう。心理的なものだと思われます』
 脳神経外科や精神科、心療内科、あちこちの病院に行ってみたけれど、どの医者も首をひねりながらメモ用紙に走り書きをする。
 軽い睡眠導入剤や安定剤を処方され、『様子を見ましょう』ということになる。
 職場で事情を話すと、同僚や上司が同情してくれた。
 営業のアシスタントが主な仕事だったから、業務にさほど支障はなかった。
 周りとは、筆談やらパソコンや携帯のメールやらで、案外スムーズに意思疎通できる。
 ただ、当然だが同僚たちとの会話は減った。
 挨拶を返そうにも、今までと同じ「おはよう」が、相手に通じるのか不安になって声を飲み込む。
 女子社員たちがメールやLINEでランチに誘ってくれるのだが、気を使わせるのが申し訳なくて笑顔で断った。
 割り切ってしまえば、意外と気楽なものだった。
 若い女の子たちの華やかなお喋りは小鳥の囀りのようだし、嫌いな上司の嫌みも『分からなくてすみません』という顔でやり過ごす。
 男性社員のつまらない世間話に話を合わせる必要も、職場の噂話に神経を尖らせることもなくなった。
 その分、相手の顔と声の表情を読むことには敏感になった。
 言葉の意味は分からなくても、噂話や悪口を話すとき、声は濁ったりひび割れたりする。
 ああ、私もそうだった。きっとあんな音で喋っていた。
 そう思い返すと、舌が口の中で小さく縮こまった。

 今までの習慣で、電話が鳴ると反射的に受話器を取ってしまう。
 (しまった)と思いながら、相手の挨拶が途切れるまで待つ。
 聞き覚えのある男性の声。落ち着いているけれど、明るい音。
 普通の発音に聞こえるようにと願いながら「申し訳ありません、少々お待ち下さい」と伝えて、隣の席の同僚に代わってもらう。
 事情を説明してくれているらしい同僚に目で詫びて、仕事を続けた。
『○○商事の山口さん。簡単に事情を説明したら、心配してたよ』
 同僚がメモをくれた。
 ようやく顔を思い出す。
 私と同じぐらいの背で、清潔だけれど地味な紺色のスーツ姿で、いつも礼儀正しい営業さんだ。 
 何度か実際に会って挨拶をしたはずだが、声の印象は残っていなかった。
 もう一度、耳に残る山口さんの声を思い返した。

 数日後の昼休み、近くの公園でサンドイッチを食べ終えたところで、山口さんに声を掛けられた。
 正確には、名前を呼ばれたような気がして振り返ったら、そこに山口さんが居た。
 山口さんは、自分で呼んでおきながら、びっくりした顔で私を見ている。
 私はとりあえず、ぺこりと頭を下げた。
 山口さんは二言三言喋りかけてから気がつき、スマホのメモ機能で
『話聞きました。体調いかがですか?』と書いてみせてくれた。
『体はなんともないんです。元気です』
「良かった」と呟いたらしい山口さんの声は、やはり穏やかで心地好い。
 私も思わず、「ありがとうございます」と声に出して答えた。

 同じ方向だからと、会社までの道を山口さんと一緒に歩く。
 春めいた陽射しが眩しくて目を細めると、山口さんが頷いてにっこり笑う。
 山口さんが立ち止まり、梢を指差す。
 和毛(にこげ)に光を纏ったコブシの蕾が、ふくふくと膨らんでいる。
 今度は私が頷く。
 別れ際、メールアドレスを交換したついでに頼んでみる。
『もう一度、名前を呼んでみてもらえますか?』
 照れくさそうな彼の言葉は、やっぱり意味が聴き取れない。
 でも、確かに私を呼んでくれたのだと、柔らかい声音をそのまま胸にしまい込んだ。



雨水=2月19日〜3月4日頃
初候・土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)次候・霞始靆(かすみはじめてたなびく)末候・草木萌動(そうもくめばえいずる)


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またまた、取り急ぎの作り話だけ更新!
コブシの蕾の中には、光の春が詰まっているはず。
でも、実はこの写真、一週間ほど前に撮ったものなのです。
今はもっと、膨らんでいるんだろうな…。




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by bowww | 2016-02-19 08:42 | 作り話 | Comments(2)

日脚

「春隣」という季語が好きです。

…という話題も、すっかりタイミングを逃してしまいました。。
先日、作り話を更新した際に、書きそびれていた呟きです。
写真は春隣の頃に訪れた、古本屋&カフェの「想雲堂」さんです。
以前からとても気になっていたお店で、先日初めてお邪魔しました。
本を読みながらコーヒーを飲んだり、夜はお酒が飲めたりするカフェです。
本に囲まれて、ゆっくり時間を過ごせる素敵な空間でした。

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「春隣」は冬の季語ですね。
気温はまだ寒いし、雪も当たり前のように降る。けれど、陽射しは確実に力強さを増している季節。
「春近し」などと同様の意味なのでしょうが、独特の温度感のようなものが好きです。
寒さでかじかんでいる肩先に、ふと温もりを感じるような。
丸まっている背中を、そっと撫でられるような。
気づくと、明るい光が背中合わせで寄り添ってくれている感じ。
私の住む辺りは、寒さが厳しい土地柄です。
「北海道の○○市より寒かったじゃん!」と驚くような最低気温も記録されたりします。
だからこそ、春の兆しに敏感になるのでしょうね。
立春を過ぎて、陽射しの強さに驚かされます。
まだ残っている雪に反射するせいで、明るさ倍増。
屋根の雪が溶けて滴りの音が盛んにし始めると、もう春です。
…とはいうものの、明日の予想最低気温は氷点下8℃。実際はもっと下がるでしょう。
春の女神はツンデレです…。


少し前に、とっても久しぶりに雑誌を買いました。
表紙の少女の清楚なスタイルと、「シックであること」というテーマに吸い寄せられて。
人は自分に足りないものを求めるのであります(故に、「整える」とか「断捨離」、「丁寧な暮らし」とかという言葉にも弱い。「いつまでも美しい人」なんていう台詞にはイチコロ)。
シンプルで上質な洋服やアクセサリー、日用品の紹介もとても素敵でしたが、「あなたが思う『シック』とは?」という質問に、センスが良い(と推察される)各界の方々が答えている特集が興味深かったです。
シック。
洗練?上品?大人っぽい?
漠然と憧れるフレーズです。
「大人の知的なセクシー」「成熟」などと、一言でずばりと言い切る人もあれば、「シックとは目に見えないことである。注目されたとき、シックは死ぬ。(以下略)」などと、まるで禅問答のような答えを提示する人もいました。
なかなか捉えどころがない、日本の「粋(いき)」とも似ているようで微妙に違う感覚なのですね。

「暮しの手帖」のエッセイ、「すてきなあなたに」が大好きでした。
1969年から続く人気エッセイ。それをまとめた単行本は全巻持っています。
もともとは祖父が母に買い与えたのですが、いつの間にか私のものになっていた1巻と2巻は、もう何度となく読み返しました。
やさしい清潔感溢れる言葉で、日々の小さな喜びや感動を「ちょっとお裾分け」といったふうに伝えてくれるエッセイです。
食べ物のお話も大好きで、ロイヤルミルクティーや桃のコンポート、缶詰の洋梨をジャム代わりに乗っけたトーストなど、真似をしては喜んでいました。
お洒落の仕方も、この本に教わりました。
形だけではないマナーも、この本で読めば素直に腑に落ちました。
著者の大橋鎮子さんは3年前にお亡くなりになったので、最新刊の6巻は複数の方が書かれた文章のようですね。

「すてきなあなたに」と同じ頃に読んでいたのが、遠藤周作の「狐狸庵シリーズ」。
「このおっさん、おかしな人だなぁ」とケラケラ笑ってしまうようなユーモア(下ネタも満載)に溢れていました。
実はキリスト教を題材にした、しごく重苦しい小説を書いている作家だと知ったのは、ずっとずっと後になってです。
今でも思い出すのは、その頃の奥さまたちのカルチャーセンター流行りを皮肉った文章です。
「少し昔はね、文化だ教養だなんて騒がずとも、お茶の飲み方一つで深い知性を感じさせるおばあさんたちが居たもんです」といった具合(原文が手元にないので、うろ覚え)。
狐狸庵先生がご活躍されていた時代と現代では、状況はまったく違います。今読めば、少々、時代錯誤だったり女性蔑視だったりするかも知れません。
でも、湯呑みの持ち方一つに表れる人柄って、どんなものなのだろうと未だに思うのです。

あなたにとっての「シック」とは?と質問されたら…いえ、誰も聞いてはくれないので、自問自答ですが。
私にとってのシックは、
大橋鎮子さんの言葉遣いと心遣い。
知性を感じさせるお茶の飲み方。
なのだと思います。
そうすると、では、「知性とはなんぞや?」という迷路に迷い込むのです…。
脳みそが暇なんですね、私。


作り話は19日「雨水」に更新します。

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by bowww | 2016-02-07 23:06 | 身辺雑記 | Comments(0)

立春

 木守りの朝は早い。
 夜明けの少し前には、林の様子を見て回らなくてはいけない。
 まもなく目覚める樹々たちを驚かせないように、できるだけ静かに。
 無頓着な小鳥たちは、日の出の気配を感じてかしましく囀り出す。
 鳴き声に紛れて、木守りは素早く木立の間をすり抜ける。
 時に立ち止まり、梢を見上げ、根元に屈み、一本ずつ状態に気を配る。
 林が健やかであることを確かめて、木守りはようやく表情を緩める。
 太陽が昇る。
 紫色の影はするすると退き、光に持ち場を明け渡す。
 樹々が眠りから覚めるころ、木守りは自分の朝食の準備に取りかかる。

 この村に住む者は、七歳になると「自分の木」を選ぶことができる。
 村を一望する小高い場所に林はある。
 村人は一人でやって来て、木守りの案内で林を巡る。
 花を咲かせる木、冬も緑を茂らせる木、樹形がたおやかな木、雄々しい木。
 若木を選び、共に成長することを選ぶ者がいれば、賢者のように老いた木を選んで、標(しるべ)とする者もいる。
 とびきりの一本を選ぼうと勇んでやって来た子供たちは、林の豊かさにかえって戸惑い、途方に暮れる。
「こんなに沢山の木の中から一本を選ぶなんて、無理だよ。探せないよ」
 木守りは穏やかに答える。
「慌てなくていいんだよ。
 君の木は必ずあるから。
 またいつでも此処に来ればいい」
 子供たちは家に帰る。
 翌日、あらためて林に向かう子供も、それきり木のことを忘れてしまう子供もいる。

「今からでも、私の木に会えるものでしょうか」
 初老の女性が、木守りに尋ねた。
 木守りは微笑んで彼女を林に導いた。
「二度と戻らないつもりで村を出ました。
 両親はとうの昔に亡くなりました。親戚との付き合いは絶えて久しいし、親しい友人も村にはいません。
 縁もゆかりもなくなった村なのに、自分の木を選び忘れていたことを急に思い出したのです。
 そうしたら、居ても立っても居られなくなって…。」
 女性は白い息を吐いて、問わず語りに語る。
 林にはまだ深く雪が残っている。
 暮れ始めた空の色を移したように、吹きだまりの雪に藍色の影が染みる。
「こんな季節に、それももうすぐ日が沈むのに、本当に申し訳ありません」
 女性はふと我に返って、木守りに詫びた。
「いいえ、木を選ぶには良い季節ですよ」
 ほとんどの樹々は葉を落とし、枝が繊細なシルエットを空に描いている。
 木守りは立ち止まり、手近な木の幹に手を当てて言った。
「芽吹きに向けて、樹々が一心に準備をしているところです。
 あの細い枝先は、いち早く春の気配を捕まえようと、精一杯背伸びをしています。
 木たちが、一年のうちで一番張り切っている季節なんですよ」
 女性は木守りを真似て、幹に触れた。
「それでも、今日は少し急ぎましょうか。
 そろそろ樹々が眠る時間ですから」
 木守りに促され、女性は再び歩き出す。

 女性は、日当りが良さそうな場所にあるカエデを選んだ。
 高さは大人よりも少し高いくらいだが、横に大きく張り出した枝が樹齢を物語っている。
 その枝にそっと触れると、カエデはくすぐったそうに梢を揺らした。
「春には若葉、秋には紅葉が美しい木ですよ」
 木守りが言う。
 頷くと、女性は目を細めてカエデを見上げた。
「なんだか、懐かしい気がして…」
「小屋に戻りましょう。温かいスープでもいかがですか」
 彼女の母親もまた、このカエデを自分の木としていたことは、木守りとカエデだけしか知らない。
 枝の隙間で金星が瞬く。
 昨夜よりほんの僅か潤んだ夜空に、もうすぐ月が昇る。


立春=2月4日〜2月18日頃
初候・東風解凍(はるかぜこおりをとく)次候・黄鶯睍睆(うぐいすなく)末候・魚上氷(うおこおりをいずる)
 


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取り急ぎ、作り話だけアップ!
寒い寒い立春の朝ですが、陽射しは確実に濃く強くなっています。


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by bowww | 2016-02-04 09:51 | 作り話 | Comments(2)