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夏至

 夏風邪は質が悪い。
 喉と鼻の境い目辺りがツンツン痛いかな?と思った翌日には、咳と鼻水が止まらなくなった。頭も痛い。
 職場や通勤電車の冷房がきつくなる頃には、決まって体調を崩す。
 仕事を休んで万年床に転がる。
 熱が体の内側に籠っているようで寝苦しい。
 パァッと発熱してしまえば治りも早いのだろうが、グズグズジクジクと関節が痛むだけ。
 外は雨。降ったり止んだりを繰り返している。
 自分も天気もすっきりしないなと、一人ため息をつく。

 枕元に置いたスポーツドリンクを時々飲みながら、寝たり覚めたりを繰り返した。
 夢ばかり見ている。
 顔は知っているはずだけれど、誰かは分からない。早く思い出さないと相手に失礼だと焦っているうちに、相手がニコニコと近寄って来る。ああ間に合わない、「こんにちは。ご無沙汰しています。ところで大変失礼ですが、どちらでお会いしましたっけ?」「ばかやろう、お前の親父だ」。違う違う、それじゃあ落語だよ。そうだ、親父だ。親父は元気だ。…いや、でもこの前会ったのはいつだっけ?おふくろと一緒に…そうそう、おふくろ、あの髪型はないだろう。無理に染めなくていいのに。「ピンクが似合うってお前が言うから」。だからって、髪の毛までピンクじゃなくてもいいだろ?
 とりとめない夢に疲れ果てて、ぐったりと目を覚ます。
 とりあえず、おふくろの髪がピンクじゃなくて良かった。
 いったい何時なのか、もう窓の外は真っ暗で、とにかくカーテンを閉めようと布団から這い出た。
「いてっ!」
 手のひらに、何かが突き刺さった。
 慌てて明かりをつけて確認する。
 右手の真ん中に、鈍く光る小石のようなものがめり込んでいる。
 払い落とそうと手を振る。
 落ちない。
 左手で引っ掻いてみる。
 取れない。
 勘弁してくれ。
「良かった、ここにあったんだ」
 不意に声がして、窓の隙間から猫が入ってきた。
 近所の家の飼い猫なのか、アパートの周りで良く見かける大きな白い猫だ。
「今日は一日中、あちらこちらを探していたのです。見つけてくださってありがとうございます」
 きちんと正座した猫が頭を下げる。首につけた鈴がチリリと鳴る。
 …そうだな。夢だもんな。猫も喋るよな。
「もしかして、これのことですか?」
 右手をひらひらと猫の鼻先で振って見せた。
「はい。結婚十周年なんだからと嫁にねだられましてね、真珠細工の牙なのですよ」
 猫は少しだけ爪を出して手のひらを控えめに引っ掻いた。
 ぽろりと落ちる。
「ほお、きれいなものですね」
「そうでしょう。特注品ですから」
 猫は胸を張った。
 いたずら盛りの子猫が持ち出して、失くしてしまったのだという。
「記念日にはプレゼントをする習慣があるんですね、あなた方の世界でも」
「いやいや、最近ですよ。女どもが人間の真似をしたがって困ります」
 嘆かわしいと首を振る。鈴がチリチリと鳴った。
 猫の世界も何かと気苦労があるらしい。
「ところであなた、人間の言葉がお上手ですね」
「いいえ?だってあなたも猫じゃないですか」
 窓を見ると、大きな白い猫と痩せっぽっちの白黒斑の猫が並んで映っていた。
 どうせならロシアンブルーやアビシニアンが良かった。


 開けたままの窓から朝日が射し込む。
 汗でぐっしょり濡れたパジャマを脱ぐ。
 体が軽くなった。一晩ぐっすり寝て、だいぶ回復したらしい。
 枕元のペットボトルを手に取ると、小さな紙包みに気がついた。
「お礼です。飲めばお体、楽になりますよ」
 窓の外で、チリチリチリ…と鈴の音が遠ざかっていく。


ねこの子のくびのすずがねかすかにも おとのみしたる夏草のうち   大隈言道


夏至=6月21日〜7月6日頃
初候・乃東枯(なつくさかるる)次候・菖蒲華(あやめはなさく)末候・半夏生(はんげしょうず)

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by bowww | 2015-06-22 09:28 | 作り話 | Comments(0)

ご無沙汰しております

だいぶ間が空いてしまいました。

七十二候のリズムに合わせて、ぽつぽつと作り話を綴って一年、いつも「ネタ」を探してキョロキョロしていた気がします。
ぐるりと一巡りして、再びの立春。やれやれ…という気持ちで一区切りつけたのが2月でした。
実はちょうど、自宅の引っ越しのタイミングと重なって、生活能力の低い私は各種手続きやら荷物の片付けやらに忙殺されていました。
気付けば春の兆しを見つけることもなく、大好きな桜も新緑の季節もビュンビュンと過ぎ去り、梅雨の真っ只中です。カエルたちが嬉しそうに大合唱です。
季節の種を摘まみ上げて、手のひらの上で数えるような毎日を送らないと、時間はなんとも味気なく流れ去ってしまうものですね。
季節に置いてけぼりを食った気持ちで、どんよりした空を見上げています。


4月に、こちらのブログでご縁を頂いたhiyoさんが主宰された、写真のグループ展に伺いました。
物語を秘めた写真の数々と添えられた言葉の美しさに惹かれて、hiyoさんのブログを度々拝見しているうちに、見知った風景が登場することに気がつきました。
隣の街に住んでおられたのです。
小さな偶然が嬉しくて、作品を直接拝見できる機会を窺っていたところ、グループ展の告知。
そのメンバーの中に、親しい知人の名前を見つけて二度びっくり。
ドキドキワクワクしながら、展示会に行きました。
初めてお会いしたhiyoさんは、華奢で(失礼な言い方になってしまうでしょうか…)とても可愛らしい方でした。
でも、お話ししていると、とても大きくてあたたかなパワーが伝わってくるのです。
作品もご本人も本当に素敵で、ますますファンになってしまいました。
hiyoさんに「ぜひ、また書いて下さいね」と背中を押して頂きました。
(ご本人曰く「私、『その気にさせる』のが得意なんですよ」とのこと…)

うん、やっぱり書きたいな、何か書きたいな…と思い続けて2ヶ月…。
現世の諸々に気を取られて、6月になってしまいました。
筋トレと同じですね、サボるとサボった分だけ力が落ちます。。
錆びかけた脳みそとアンテナを軋ませながら、再スタートしたいと思います。
七十二候に合わせての5日毎の締め切り再び!はちょっとしんどいので、今度は二十四節気のリズムで。
作り話と、覚え書きのような日記のような呟きをパラパラと。
次回は7月7日の小暑に更新します。
お付き合い頂ければ、本当に嬉しいです。

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by bowww | 2015-06-22 09:25 | ご挨拶 | Comments(2)