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第五十九候 朔風払葉

 王は夜明け前に、そっと城を抜け出した。
 明日は王子の婚礼の日。
 隣国から来た花嫁は美しく賢く、迎える王子は凛々しく自信に溢れている。
 国の隅々まで祝福の声が満ちていた。
 城内は喜びに沸き立ち、誰もが準備に忙しい。
 老王の不在に気付く者は、当分いないだろう。

 王は長い間、誠意を持って執務にあたり、国の安寧のために心を砕いてきた。
 おかげで、小さくとも豊かな国として近隣諸国から重んじられてきた。
 民や臣下からも慕われ、敬われてきた。
 王は満足だった。
 はずだった。
 王子の結婚が決まった頃からだろうか。
 公の場で身につける冠が、やけに重く感じることに気付いた。
 豪奢なマントも、纏わりついて動きを妨げる。
 老いたのだと悟った。
 王子と花嫁の間に嫡男が生まれれば、心置きなく王座を譲るつもりでいた。
「もうすぐ、楽隠居の身分だ」
 王は一人、笑ってみた。
「…しかし、王でなくなった私は、何者になるのだろう」
 笑顔は消えた。
 ふと湧いた疑問が、それからずっと胸の奥底でひんやりと凝っている。 

 王は広い敷地を抜けて森へ入った。
 供を連れず、一人で歩き回るのは初めてだった。
 樹々はすっかり葉を落とし、森の道はせいせいと明るい。
 朝露に湿っていた落ち葉もやがて日の光でふかふかと乾き、踏み心地が柔らかい。
 澄んだ鳴き声に目を上げれば、梢に瑠璃色の小鳥が飛び交う。
 歩く楽しさに我を忘れ、王はいつか森の奥で道を見失っていた。
 太陽は頭上にある。
 さすがに昼を過ぎても王の姿がなければ、城の者たちが騒ぎ出すだろう。
 王は慌てて元来た道を探すが、いっこうに見つからない。
 闇雲に歩き回るうちに、粗末な炭焼き小屋の前に出た。
 泊まり込んで火の番をする者がいるらしく、煙突から煙が漂っている。
 道案内を頼もうと声を掛けたが、誰も出てこない。
 疲れた王は、小屋の前にある大きな石に座り込んだ。
 煮炊きをするのか、大小の石を積み重ねた簡単な竃には埋み火が残っていた。
 王は戯れに、枯れ葉を投げ込んだ。
 すると、あっという間に燃え上がり、燃え尽きた。
 王は少し面白くなって、枯れ葉や枯れ枝を集めてきては投げ込んだ。
 火は大きくなり、パチパチと爆ぜる音も楽しい。
 無心に焚き火を見つめていると、
「あんた、誰だね?」と嗄れた声が王を咎めた。
 王は飛び上がるほど驚いて振り向いた。
 腰が曲がり、ボロボロの服を着た老人が立っていた。
 王はしどろもどろに身分を明かし、道に迷ったのだと説明した。
 老人は顔色一つ変えない。
「王様、申し訳ないが、これからわしは昼飯を食う。その後で炭の焼け具合を見る。暗くなる前に薪を探しに行かなくちゃならんし、水も汲んでこないといかん。道案内をしている時間はないですわ」
 なんという無礼!
 王は怒りに震えた。
「おお、そうだ。今日は孫がパンやら肉やら届けてくれる日だったわ。孫に森の外まで案内させるで、それでいいかね?」
 老人は王の様子に頓着せず、淡々と言葉を続けた。
「それまで、そこに座ってお待ちなされ。今、ミルクを温めるで」
 王は拍子抜けして再び座り込んだ。
 老人は小屋の中からミルクの入った鍋を持ち出し、王が起こした火に掛けた。
 木をくり抜いた器に移すと、
「ほれ、お飲みなされ」と無造作に王に渡した。
 牛の乳なのかヤギの乳なのか、ミルクはとろりと甘く、空っぽの腹を底から温めた。
 老人は自分のパンを火で炙り、ミルクに浸して口に運んだ。
 器を空にすると、二人とも無言のまま、火を見つめた。
 老人の孫が来るまで、二人はそのままだった。

 城に戻った王は、王子の結婚式を威厳を持って取り仕切った。
 そして若い二人に男の子が生まれるまで、これまで通りに正しく国を統べた。
 譲位するとき、王は城の庭の外れに、簡素な小屋を建てた。
 小さな焚き火の世話をする老王の横顔は、穏やかだった。
 

 
〜朔風払葉(きたかぜ このはを はらう)〜 



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葉を落とした樹々の枝先を見ると、「神経質な老貴婦人」を想像します。
硬質な青空を背景に、むき出しの細い枝を伸ばして。
春が来るまで、じっと我慢ですね。
今年の秋は、イチョウの黄葉がとても鮮やかでした。
イチョウの落葉は、チラチラハラハラではなく、或るタイミングでザッと一気に散ると聞いたことがあるのですが、本当なのでしょうか。
本当なら一度見てみたいです。
金色のスコールのようになるのかなぁ。
最近は銀杏(ギンナン)が「くさい!」とクレームが出るそうですね。
確かに強烈な匂いだけれど…。
あんなに美味しいのになぁ。一年のうちで、ほんの数週間のことなのになぁ。
ちょっとだけ、我慢するわけにはいかないのかしら。

海の旬は蟹などなど。
昨年、同僚のつてで、浜茹でした越前蟹を食べる機会に恵まれたのですが、それはそれは幸せな美味しさでした。
普段手に入るのは冷凍もの。身が痩せて水っぽいのです。それでも鍋に入れれば良い出汁は出ますが。
茹でただけなのに、甘くて程よく塩気が効いて、ふっくらみずみずしい蟹でした。
昔、上司だった人が「無理矢理すすめられた見合いで、わざと蟹の店を選んだことがある。お互いに黙々と食べるだけだったから、会話をしなくて済んだんだ」と言ってたことを思い出します。
確かに、蟹を食べていると無言になりますよね。
でも、お見合いの席で蟹が出てきたら、女性としては(相手がどうであれ)興冷めですよね。
蟹を美しく食べるのは難しいですもの。
親しくない異性とは食べたくありません。
山の旬は椎茸などなど。
…椎茸、嫌いなのです、とても。。
味はもちろん、匂いも形も食感も。
それなのに、学校給食には何にでも椎茸が入っていました。
茶碗蒸しに、銀杏が入っていると嬉しいけれど、椎茸が入っているとガッカリします。
改まった席では、仕方がないからコッソリ丸呑みします。
ほかのキノコは大好きなんですけれど…。


次回は12月2日「橘始黄」に更新します。



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by bowww | 2014-11-27 09:39 | 七十二候 | Comments(4)

秋の忘れ物

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今年は山のドングリがとても不作だったせいで、熊がたくさん里に降りて来てしまいました。
今年ほど熊のニュースが多かった年は記憶にありません。
それがここ10日あまりで、ぱたりと途絶えました。
お腹を空かせたまま、冬眠に入ったのかなぁ。
捕殺された熊はみんな、ガリガリに痩せていたそうです。
お母さん熊や子熊は、冬を越せるんだろうか。
襲われて大怪我を負った人がいる以上、そして山の中を駆け回って熊を探す猟友会の人たち(高齢化が進み、鉄砲を打てる人たちは皆おじいさんです)のことを思うと、ただ単純に「熊が可哀想」とは言えないのですが…。
お腹が空っぽのまま、冬眠するのは辛いだろうなぁ…。

ドングリを見ると拾いたくなります。
子供の頃、袋一杯拾って来て暫く置くと、小さなニョロニョロ虫がわらわらと出てきて、「ひぇ〜〜!」となったものです。
なので今は見つけても、眺めたり、手に持ってみたりして楽しむだけ。
持ち帰りません。


  小さな手の ひらにひとつ
  古ぼけた木の実 にぎりしめ
  小さなあしあとが ひとつ
  草原の中を 駆けてゆく

  パパとふたりで 拾った
  大切な木の実 にぎりしめ
  ことしまた 秋の丘を
  少年はひとり 駆けてゆく

   「小さな木の実」作詞:海野洋司 原曲:ビゼー「美しいパースの娘」


この曲を口ずさむと、鼻の奥がツーンとします。
…うちの父はうるさいくらい健在なのですけれども。




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by bowww | 2014-11-25 20:52 | 番外編 | Comments(2)

第五十八候 虹蔵不見


 大きな鞄。
 視界に飛び込んで来た古い革のトランクは、非常識なくらいに大きかった。
「隣、空いてますか?」
 ちらっと見上げると、グレーの古びたコートを着た男性が脇に立って、僕の隣の席を指し示している。
 こんなに大きな鞄を足元に置かれたら、こちらも窮屈で嫌なのだが、確かに席は空いている。
「…ええ、どうぞ」
 男性は軽く会釈すると、静かに座った。
 コートから冷たい外の匂いが漂う。微かに煙草の匂いも。
 ホームでだいぶ時間を過ごしたのだろうか。
 発車を告げるベルが鳴って電車がゆっくりと動き出す。
 疲れていた僕は、背もたれと肘掛けに体を預けて目を閉じた。

 うとうとしていると、膝に固い物がぶつかった痛みで目が覚めた。
「申し訳ありません!」
 隣の男性のトランクが倒れ掛かったのだ。
 さすがにむっとして見返すと、思っていたより若い顔があった。
 平凡な目鼻立ちだが小ざっぱりしている。
 心底すまなそうな顔で謝るので、少しだけ気持ちが和らいだ。
 とはいえ、膝はジンジンと痛む。
 曖昧に微笑んでおいて、もう一度眠ろうとしたが目が冴えてしまった。
 仕方がなく、ペットボトルのお茶を一口飲んで、強張りかかった肩と首を回してほぐす。
 男性はこちらの様子を窺っていたようで、僕が本を取り出そうとしたタイミングで声を掛けてきた。
「学生さんですか?」
「…はい」
 就職活動で、地元の企業説明会に行った帰りだった。
 本当は東京で働きたいのだが、すでに二十社ほど入社試験に落ちていた。
 地元の企業なら楽勝だろうと考えていたが甘かった。
 県内で名を知られた会社は、もう募集さえしていない。
 とりあえず行ってみた中小企業の合同説明会では、僕なんかよりもずっと熱心な学生たちが、それぞれのブースに列を作っていた。
 僕はすごすごと会場を後にした。
 不安と焦燥感に押し潰されそうだ。
 僕の表情を見てとったのか、男性はそれ以上、詮索じみた質問はせずに窓の外に目を向けた。
「この辺りは、もうすぐ雪が降りますね」
 電車は県境の山々に差し掛かっていた。
 トンネルとトンネルの間に見える風景は、どんよりとした空模様のせいで余計に寒々しくみえる。
「これから暫くは、私の仕事も暇になるんです」
 僕はあまり喋りたくない気分だったが、仕方がなく、
「どんなお仕事をされているんですか」と尋ねた。
「ニジ集めですよ」
「ニジ?」
 虹?
 あまりに素っ頓狂な答えに、からかわれたのだろうと思い、口をつぐんだ。
「虹です、七色の。注文通りの虹を探して届けるんです」
「夏は簡単なんですよ、特に最近は日本でも南国みたいなスコールが降るでしょ?虹も濃くはっきり分かりやすい。上等なのが簡単に手に入るようになりました。
 以前は海外まで足を伸ばしたもんですがね」
 男性は、いたって真面目に説明を続けた。
「月夜の虹、という難しい注文もあります。ハワイ諸島で見られるんですよ。白っぽいんですけれど、見た人は幸せになれるという言い伝えがあるとあって、人気が高いですね」
「カメラマンさんですか?」
 虹を専門に撮っているということだろうか。
「写真に撮ることもありますが…現物の方が良い値で売れますね」
 やはり、からかわれているのだ。
「現物って…。どうやって手に入れるっていうんですか」
 思わず声がきつくなった。
「それは企業秘密です。商売になるように試行錯誤を重ねたんですから」
 もう相手をするのは止めよう。
「まず、天気図や地形図を分析して次に虹が出そうな時と場所の見当をつける。その場所に行ってひたすら待つ。根気よく待つのがコツだけれど、見極めも大事。より良い条件の場所があれば、すぐにそちらに行かなくちゃ」
 鮮度がいい虹ほど、長持ちしますからね、と穏やかに続けた。
「信じられない?」
 男性は僕の顔を覗き込む。
「このトランクの中に、サンプルが詰まっているんだけれど…。見てみます?」
 通りすがりの人間を騙すにしては手が込んでいる。
 僕は興味をそそられたのもあって、黙ったまま頷いた。
 男性はトランクを持ち上げ、膝の上に乗せた。
 もちろん、一人では支えきれない。僕の膝も貸すことになった。
「日光に当てると色が褪せやすいんです。トンネルに入るまで待って」
 鍵を開けて、トンネルに入る瞬間を二人で待ち構える。
 ヒュンッと窓の外が真っ暗になった。
「今だ!」
 蓋を僅かに押し上げる。
「見て!」
 僕は、十センチほどの隙間に目を押し当てた。
 トランクの中は、色々な色の光の粒子が無数に飛び交っていた。光の霧が立ち籠めている。目を凝らすと、幾つもの小さなガラス瓶が並んでいて、その一つ一つが光を放っているらしい。蛍よりも儚いけれど、この世のすべての色が詰まっているように見えた。
「はい、そこまで」
 鼻先で蓋がパタンと閉まった。
 僕はシバシバと瞬きをした。
「どうでした?」
「…光ってました」
 虹屋は満足そうに微笑んだ。

 僕が降りる準備を始めると、虹屋はコートのポケットに手を突っ込んで、何かを引っ張り出した。
 ハンカチに包まれた小瓶を僕に差し出す。
「これ、トランクをぶつけてしまったお詫びです」
 受け取ると、微かにサラサラと音がする。
「昨日採取した冬の虹。この季節はどうしても光が弱いから、発色がいまいちなんだ。でも、レアだから、そこを喜ぶお客さんもいるんです。それとね、冬の虹はどういうわけか、良い香りがするんですよ」
 僕はつい、小瓶に鼻を近づけた。
 虹屋は「無理無理、しっかり封がしてあるから」と笑ってから、
「願いが叶ったり、嬉しいことがあったりしたら、虹を空に返してあげてくださいね。きっともっと大きな虹を連れて来てくれますから」と付け加えた。
 虹の世界も、キャッチ&リリースが大切なのかと感心した。

 僕は夜、こっそり小瓶を取り出す。
 明かりも消して、虹のご機嫌をうかがう。
 確かに薄ぼんやりとした光だけれど、これは僕だけの虹だ。

 

〜虹蔵不見(にじ かくれて みえず)〜


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二十四節気は小雪。雪が散らつく季節、です。
タイヤ交換、急がなくては!
昨シーズンの終わり、今年の2月には近年まれに見る大雪が降りました。
県境では雪道で立ち往生した車が数日間に渡って動けなくなりましたし、私の住む辺りでも雪を捨てる場所に困るぐらいの大雪でした。
物流も寸断されて、スーパーやコンビニなども品薄になりました。
あれは心細いものですね。
夏の豪雨、冬のドカ雪、だんだん暮らしにくくなっていくようです。
今シーズンは、せめて前回の半分ぐらいの積雪でお願いしたいと思います。。

海の旬はシシャモ、キンキなどなど。
山の旬は大豆などなど。
枝豆の熟したものが大豆ということを知らない方、意外といらっしゃるんですね。
確かに、甘くてみずみずしいお酒のおつまみが、あんなにカチカチになるなんて結びつきませんものね。
お正月には黒豆を煮ます。同僚や友人にもお届けする、私の唯一の自慢料理です。
…なんて、丹波の黒豆を奮発して、土井勝先生のレシピを忠実に守れば、ふっくらつやつやに炊きあがること、間違いなしなんですけれど。
ああ、もうすぐお正月の準備だ…。
その前に年賀状…。
いやいや、仕事の追い込みが…。
大掃除は……、ま、適度に……。


次回は11月27日「朔風払葉」に更新します。


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by bowww | 2014-11-22 09:49 | 七十二候 | Comments(7)

11月20日 きょうの空

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  あの町この町 日が暮れる
  日が暮れる
  いま来たこの道 帰りゃんせ
  帰りゃんせ

  お家がだんだん 遠くなる
  遠くなる
  いま来たこの道 帰りゃんせ
  帰りゃんせ

  夜空に夕べの 星が出る
  星が出る
  いま来たこの道 帰りゃんせ
  帰りゃんせ

      作詞:野口雨情 作曲:中山晋平



童謡・唱歌の類いが好きです。
よく口ずさみます。
同年代の人たちはほとんど知りません。
私が口ずさんでいると、「…年齢詐称してる?」と怪訝そうです。
どうしてだろ、昭和というよりもむしろ大正時代(〜第二次世界大戦)の頃の方が、自分のメンタリティにしっくり来るような気がしてなりません。
…なんていうと、そこはかとなくレトロかつ上品な雰囲気が漂いますが、要するに、アップテンポな音楽についていけないだけなのだと思います。
子供の頃から母親に、「…どうしてoriは、盆踊りでもワンテンポ遅れるのかしら」と呆れられていました。
ライブに行って本人はノリノリで手拍子を打っているつもりでも、同行した友人たちから「…なんかビミョーにずれてる…」と指摘され続けています。
音楽を聞くのも歌うのも大好きなのですが…。
音感、特にリズム感が壊滅的にダメなのです。。
故に、ゆったりとして単純な童謡のリズムと、古めかしい歌詞が心地好いのでしょう。
ふとした時の気持ちを口ずさむと、懐かしい童謡になります。
私、老人ホームの慰問に行けば、きっと重宝されますね。

秋の日は釣瓶落とし。
最近は午後四時半になれば、日が暮れます。
写真は、放置された柿と夕焼け空。
晩秋の夕暮れは、お家が恋しくなります。
家に待っていてくれる人が居るというのは、とても幸せなことですね。
なんでもない日常ですが、有限であることが分かっているだけに、とてもとても貴重に思えます。

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by bowww | 2014-11-20 20:52 | 番外編 | Comments(0)

第五十七候 金盞香

 ああ、また今日も…。
 ご近所の吉岡さんは、いつも何かに怒っている。
 面倒見がよくて働き者で、正義感が強い。強すぎる。
 よく見ればなかなかの器量良しだと思うのだが、周りの人は吉岡さんの容姿など気にしてはいない。
 怒られないように、そっと遠巻きに見ている。
「悪い人じゃないんだけどねぇ…」
 この辺りの人たちは、何かしら、吉岡さんに助けてもらっている。風で飛んだ洗濯物を届けてもらったり、雪かきを手伝ってもらったり。
 そして、その倍、叱られている。「ゴミの出し方が悪い」とか、「車の停め方が邪魔だ」とか。
 吉岡さんは、私の店に一日おきにパンを買いに来てくれる。大切なお客さまだ。
 ガラガラと戸を開けて足音高く入って来る。店内をぐるっと見回してから、カレーパンとアップルパイをトレイに乗せた。
 レジにドンッと音を立てて置く。
「あと、食パン一斤も。いつも通りにスライスお願いします」
 仕草はやや荒っぽいが、言葉遣いは丁寧だ。
 どうやら、うちの店に腹を立てているのではないらしい(以前、既に何度か叱られている)。
「だいぶ寒くなりましたね」と挨拶すると、
「まったくね。今年は夏が短くて、秋だってろくになかったようなものじゃない?寒くなるのが早すぎるわよ」
 そうか、今日は空模様に腹が立つのか。
 なんとなく背中を見送る。
 細い肩は、いつもピンと張っている。

「いつでも親の敵を探してる感じよね」と、私の母がため息混じりに言った。
「旦那さんが早くに亡くなったでしょ、それから女手一つでお子さんを二人育て上げたんだもん。しっかり者になるのは当たり前なんだけどねぇ…」
「それでも、言ってることは間違ってないよね」
「それだから、叱られた方はぐうの音も出なくなるでしょ?正論で攻められちゃ、逃げ場ないじゃない」
 なるほど、母が言うのももっともだ。
 吉岡さんの娘さんも息子さんも、結婚してからあまり実家に寄らないようだ。
 ああいうお母さんとだと、気詰まりなのかも知れない。
 そう思うと、吉岡さんがちょっと気の毒になる。

 あれ?
 吉岡さんがサーモンピンクのマフラーをしている。
 いつも黒や灰色の地味な服装なのに。
「吉岡さん、とてもお似合いです、そのマフラー。素敵ですね」
「お世辞は嫌いよ」
 返事は相変わらず愛想もこそもないが、口元がちょっとだけ緩んでいる。
 お世辞なんかではなく、本当に驚いたのだ。
 吉岡さんの肌の白さが際立つし、何よりも表情がとても柔らかく見える。
 私が本気で感心しているのを見て取ると、吉岡さんは照れ隠しのように、
「アップルパイ、林檎の量が減ったんじゃないの?ちゃんと紅玉を使ってるんでしょうね?」と文句を言い出した。
 そのくせ、今日はアップルパイを二つ買って行った。

「吉岡さんに褒められちゃった」
 常連の山口さんが、目を丸くして店に入って来た。
 山口さんは吉岡さんの隣に住んでいる。
「ほら、うちは子供たちがまだ小さいでしょ?あまり騒々しいと叱られるから、いつも息を潜めるように暮らしてるわけ」
 それはお気の毒だ。
「ま、子供たちがうるさいと怒られたことはないんだけどね。そのかわり、挨拶ができないと容赦なく叱るの」
 筋は通っている。
「今朝、子供たちが学校へ行く前に玄関先を掃除していたら、吉岡さんが『偉いわね、ちゃんとお手伝いできるようになったのね』って…。
 それもニッコリと!
 もう、子供たちも私も、『この人、笑えるんだ』ってびっくりしちゃったわよ」
 雪が降らなきゃいいけどね、と笑いながら山口さんは帰って行った。

 吉岡さんが四日間、店に顔を出していない。
 いつも判で押したように定期的にパンを買いに来るのに。
 どうしたのだろうと、少し心配になってくる。
 店が終わったら様子を見に行こうかと思ったとき、初老の男性が戸を開けた。
「いらっしゃいませ」
 グレーのフランネルのジャケットに、デニムシャツ。眼鏡が似合う、なかなかダンディな男性だ。
 小さなピンクの花束を、恥ずかしそうに、でも大切そうに持っていた。
「あの…アップルパイを二つ…。それと、えぇと…食パンを」
 あれ?
 パンを包みながら閃いた。
「もしかして、吉岡さんの…お知り合いです?」
 男性はパッと顔を赤らめた。
「…はい。こちらのパンが美味しいからとリクエストされまして…」
 どうやら、風邪をひいて寝込んだ吉岡さんのお見舞いに行く途中らしい。
 そうかそうか、そういうわけだったのか。
 私はクリームパンを二つ、袋に入れた。
「これは私からのお見舞いです。お大事に、とお伝えください」
 男性は片手に花束、片手にパンが詰まった袋をぶら下げて出て行った。
 遠ざかる広い背中の隣に、吉岡さんの後ろ姿を並べてみる。
 歩道に落ちる陽射しが柔らかい。


〜金盞香(きんせんか さく)〜


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金盞は水仙のことだそうです。
昔、中国で水仙の花の黄色の部分を金色の杯(金盞)、周りの白い花弁を銀台に見立てたから、とあります。
水仙、私のイメージでは早春の花なのですが、確かに年末からお正月にかけてお花屋さんに並びますね。
だいぶ寒くなりました。
小春日和が嬉しい季節です。
小春日和、ヨーロッパでは「老婦人の夏」と呼ぶそうです(厳密には、9月末から10月初めの頃の季節感のようですが)。
一説によると、この頃に蜘蛛の糸が銀色に輝く様が、マダムの銀髪を連想させるからだとか。
アメリカではインディアン・サマー。
外国でも日本でも、厳しい冬が来る前のご褒美みたいな時間なのだな、と思います。

海の旬は甘鯛(関西でよく食べられる魚ですね。美味しいですよね)などなど。
山の旬はレンコン、カリフラワーなどなど。
母が漬けてくれたカリン(マルメロ)の蜂蜜漬けが、そろそろ飲み頃です。
蜂蜜の中で、カリンが黒っぽく萎れてきました。
今年はたっぷり漬けたので、冬の間は安心です。
咳っぽい時にはぴったり。
小さなお子さんにも安心して飲ませてあげられますよね。
まだ風邪をひいていないけれど、味見したいなぁ…と思っています。


次回は11月22日「虹蔵不見」に更新します。




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by bowww | 2014-11-17 10:05 | 七十二候 | Comments(2)

第五十六候 地始凍

【前回からの続きです…】


 香奈は困って、店の中をキョロキョロと見回した。
 壁一面の棚だけでは納まらず、足元にも幾つもの本の山が林立している。
「いえ、あの…特に…」
 これでは挙動不審だと思うほど、なんと言っていいのか分からなくなる。
 頬や耳に血が上って、カーッと熱くなる。
 男の人は香奈の戸惑いも気にせずに、上機嫌で話し続けた。
「学校の帰り道だよね?本が好きなのかな。お小遣いで買える本も沢山ありますよぉ。今はまだ整理の途中だから散らかっているけど、欲しい本を言ってくれれば探し出すから」
「…あの…本はあまり…」
 香奈はあまり本を読まない。友達から借りるマンガを読む程度だ。
 男の人は見る間にしょんぼりしてしまう。
「初めてのお客さんかと思って…。すいません」
「こちらこそ、すみません…」
 二人で言葉をなくして、その場に立ち尽くした。
「こんばんは、いらっしゃいませ」
 女の人の柔らかな声が響いた。
 店の奥から、長い髪を無造作に後ろで束ねた女の人が出て来た。
 香奈を見るとにっこり笑って
「良かったら、ゆっくり見て行ってくださいね」と声を掛けた。
 そして男の人に向かって
「しゅういちさんは本の整理に集中!夕飯までに、この棚を片付けるようにね」
「だって、けいこさん…」
「夕飯、いらないの?」
「分かりました、やります」
 しゅういち、と呼ばれた男の人は、しぶしぶと作業に戻った。
 香奈はホッとして、改めて店内を見回す。
 タバコを売っていた小さな窓は出窓になっていた。その辺りは片付けが終わったらしく、ランプ型のライトを灯している。白いぽってりとした磨りガラスのシェードはスズランの花のようで、茎を模した支柱が優美な曲線を描いていた。
 外から見えた橙色の明かりはこれだったのかと、香奈が窓辺に近寄る。
 ランプの横には、古い薬瓶に生けられた野茨の真っ赤な実。
 きっと、けいこさんというあの女性が飾ったのだと香奈は思った。
 出窓の隅にも、文庫本が数冊、積み重ねてある。
 表紙には、時代遅れだけれど可愛らしい女の子のイラストが描かれていた。
 ちょっと昔のラノベみたいなものかな。
 香奈は何気なく手に取った。パラパラめくると、埃っぽい古い紙の匂いがする。
「あら、それ…」
 けいこさんが気がついて声を上げた。
「ごめんなさい!触っちゃ駄目でしたか?」
「ううん、違うの。それ、私物なのよ」
 けいこさんが少し照れくさそうに言う。
 化粧っ気はないが、切れ長の目が特徴的な美人タイプだ。
「氷室冴子、て作家は知らないかな。コバルト文庫は…今もあるのよね」
 けいこさんは香奈から本を受け取ると、同じようにパラパラめくった。
「私が子供の頃、夢中になった少女小説なの。ラノベの走りね。イラストが可愛いしマンガを読む気楽さで読めたから、とても流行ったのよ。
 これは私の姉が読んでいた本。姉にねだって譲り受けて、何度も読み返したの」
「けいこさん、乙女趣味だもんね」
 しゅういちが棚に本を詰め込みながら茶化す。
「しゅういちさん、やっぱり夕飯抜き!」
 もしゃもしゃ頭が項垂れる。
 けいこさんは意に介さず、香奈に本を渡した。
「もし良かったら、これを読んでみる?」
「いいんですか?」
「売るわけにはいかないけど、貸してあげる」
 香奈は少しためらった。気まぐれに入っただけなのに、大切なものを借りていいものだろうか。
 香奈のためらいを見て取ると、けいこさんはふんわり微笑んだ。
「○○高校の生徒さんでしょ?吹奏楽部の練習の帰り、でしょ」
 香奈のクラリネットのケースを指差した。
「実は私も、あそこの卒業生なの。同じ学校のよしみで、ね」
 そして、もしこの本が気に入ったなら、ほかの本も読んでみて欲しいと、今度はニカリと笑った。

 帰りがけ、香奈はショップカードを手渡された。
『古書あります。お探しの本、探します。
  ほたる堂
   佐竹愁一・蛍子』
 香奈は帰りの電車の中で、鳥の子色の和紙に刷られた文字を見つめた。
 「ほたる堂」は蛍子さんの名前からつけた店名なのだろう。愁一さんはあんなに賑やかな人なのに、「愁」という字が名前に入っているなんて可笑しい。
 香奈は一人で笑いをかみ殺した。
 それにしても、二人は姉弟だろうか。
 しっかり者のお姉さんと弟?
 …にしては、あまり似ていない。
 そういえば、二人とも左の薬指に銀色の指輪を嵌めていた。
 夫婦?
 …にしては、少し年齢が離れているようだけれど…。
 通っていれば、やがては分かることだろう。
 香奈は借りた文庫本をそっと開いて読んでみた。
 小説の主人公は、自分と少し似ていると思った。

 翌日、香奈は理科室の前で、田島先輩とばったり出会った。
「コンサートの準備、進んでる?」
 吹奏楽部は毎年、公民館のホールでクリスマスコンサートを開いている。
「俺も聴きに行くから。頑張れよ」
 香奈は「はい」と頷くだけで精一杯だった。
 放課後、クラリネットに触るのが待ち遠しくて仕方がなかった。
 
 

〜地始凍(ち はじめて こおる)〜


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読んで字のごとく、地面が凍り始める冬の入り口です。
秋の終わりから冬にかけて、霧が深くなります。
写真を撮った日は午前10時近くまで朝霧が晴れませんでした。
霧の風景は幻想的で好きですが、車の運転は要注意。
「霧が深かったり、雪が激しくて視界が悪かったりする時は、センターラインを見て走るといいんですよ」と、代行の運転手さんに教わったっけ。
もうすぐ雪の季節だなぁ。

海の旬は牡蠣!牡蠣の季節到来!
牡蠣、美味しいですよねぇ。
9月に隣街で野外のビアフェスがありました。
青空の下、全国のクラフトビールをたっぷり味わうというご機嫌なイベントだったのですが、フードコーナーも充実していまして、手作りソーセージや地元で育てた豚の丸焼きなんかがありました。黒ビールと、殻付き牡蠣の炭火焼きが絶品でした…。
山の旬は銀杏(ギンナン。宴会料理の茶碗に入っていると嬉しくなります)、柿(酔い覚ましに本当に効き目あり)などなど。

作り話に登場したコバルト文庫。
80〜90年代の十代の女子たちは、誰もがきっと一冊は読んでいたと思います。
ほとんどは「ハーレクインか?」みたいなラブストーリーだったのですが。
氷室冴子の「シンデレラ迷宮」「シンデレラミステリー」は、どうしても処分できずにいまだに取ってあります。
本だけが友達という引っ込み思案の女の子が、どうしたわけか物語の世界に紛れ込んでしまって、自分が大好きだった物語のヒロインたちと出会って成長していく、というファンタジーです。
結末はほろ苦いけれど、でも爽やか。
最近読み返してみて、上質な少女小説だなぁ…と感心しました。
この本をきっかけに、「ジェイン・エア」を一気読みしたのであります。


次回は11月17日「金盞香」に更新します。


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by bowww | 2014-11-12 09:45 | 七十二候 | Comments(2)

三日前の月夜

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満月の前の夜の月。十四夜、かな。
6日の夜に撮りました。
薄い雲が一面に空を覆っていたのに、月の光があまりに強くて、なんだか明け方のような明るさでした。
雲の様が面白くて。(月そのものは思いっきり滲んでいますが。。)
コーヒーに垂らしたミルクが一度沈んで、モアモアと浮かび上がってくるような。
明かりのない場所でも、相手の表情が見えるような月夜でした。

  月天心貧しき町を通りけり 与謝 蕪村 
  やはらかき身を月光の中に容(い)れ 桂 信子

月が空の天辺・真ん中に来るのが「月天心」。
蕪村の句を読んだとき、月が慎ましい町や村を照らしながら通り過ぎていく図を想像しました。
そして、アンデルセンの「絵のない絵本」を思い出しました(貧しい絵描きに、お月さまが話しかけてくれるという物語)。
でも、大岡信さんの解釈によると、作者自身が月光を頼りに貧しい町を通り抜けていく、という句なのですね。
月明かりに照らされる景色に変わりはないけれど、天上から俯瞰していた視点が、一気に地上に引きずり下ろされたような気持ち…。
桂信子の句は、女性にしか表現できない情感を、的確に豊かに掬い上げているので好きです。
上品なのに艶っぽい。憧れます。

寒くなるほど、月や星の光が冴えてきますね。
冬の夜空は豪奢です。
…寒くて長い時間は見上げられないけれど…。



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by bowww | 2014-11-08 22:26 | 番外編 | Comments(0)

第五十五候 山茶始開

 放課後の練習が終わって、香奈はクラリネットを片付けた。
 夏のコンクールの後、三年生は引退した。
 吹奏楽部は部員は三分の二になり、残った一、二年生は気持ちが緩んでしまったように、全体で音合わせをしてもまとまらない。今日も練習に熱が入らず、顧問の先生に叱られた。
 香奈はため息をついて、ケースの蓋を閉じる。
 大好きなクラリネットを吹いても楽しくない。
 田島先輩が居ないだけで、こんなにも味気ない。
 高校に入学して間もなく、香奈は吹奏楽部の見学に行った。
 部員たちは新入生を勧誘しようと、ジャズのビッグバンド風にアレンジした編成で演奏してみせた。
 香奈はソロでテナーサックスを吹く男子生徒に目を奪われ、入部を決めた。
 それが田島先輩だった。
 楽器を持っていないときの先輩は無口でとっつきにくい。だが、裏方の力仕事は誰よりも早く片付けた。練習で躓いている後輩が居れば、さりげなく気を配った。
 よく見れば整った顔立ちなのに、滅多に笑わない。だから余計に、笑顔の先輩を見かけると嬉しくなった。目立たない優しさに気づくと、得をした気分になった。
 言葉を交わしたのは数えられる程度だったが、先輩の姿が見られるだけでも嬉しかった。
 音が止んだ音楽室は、がらんとしている。
 香奈は泣きそうになって、慌てて音楽室を後にした。

 ついこの前までは、昇降口を出てからも部活の仲間と立ち話をしていたのに、今は夕暮れの早さに急かされるように帰り道を急ぐ。
 日が沈むと途端に気温が下がる。
 マフラーだけでも持ってくれば良かった。
 香奈は首をすくめ、ブレザーの袖を思いっきり伸ばして駅へ向かった。
「…あれ?このお店…?」
 商店街に入る手前に、ずっとシャッターが下りたままの店があった。昔は文房具や駄菓子、タバコを売る店だったそうだが、香奈が高校に通う頃にはとっくに閉まっていた。
 そこに明かりが灯っている。
 タバコ売り場だった小さい窓から橙色の光が滲む。
 店の入り口は下半分が磨りガラスで、上には「古書・ほたる堂」と書かれていた。
 古本屋になったらしい。
 香奈はそっと覗き込んだ。
 途端に、ガラス戸がガタピシ開いた。
「いらっしゃいませ!」
 元気の良い声に面食らって、思わず足を踏み入れてしまう。
 本の壁に囲まれて、クシャクシャ頭の若い男の人が立っていた。
「どんな本をお探しでしょう?」
 眼鏡の奥で、楽しそうに目が細まった。


【…続きます】



〜山茶始開(つばき はじめて ひらく)〜



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とうとう立冬です、冬が来ます。
地元の山は、頭のてっぺんだけ雪をかぶっています。
そろそろタイヤの交換をしなくては…。
ツバキ、とありますが、実際はサザンカ(山茶花)のことを指すそうです。
サザンカと言えば、「サザンカ サザンカ 咲いた道 焚き火だ 焚き火だ 落ち葉焚き♪」の歌ですね。
 垣根の 垣根の 曲がり角
 焚き火だ 焚き火だ 落ち葉焚き
 あたろうか あたろうよ
 北風ぴいぷう吹いている
最近は庭先で焚き火をすることも滅多になくなりました。
都会では尚更でしょうね。
私の住む辺りでは田んぼの畦焼きなどがあるので、あの焚き火の匂いが割と身近です。
冷たくなった空気に焚き火の匂いが混じると、冬が来るんだなぁ、と思います。

海の旬はヒラメ、ホタテ(殻付きのホタテが安いと、ついつい買ってしまう)などなど。
山の旬はネギ、西洋ナシなどなど。
地元の伝統野菜で、ずんと太いネギがあります。白い部分が曲がっているのが特徴です。
県外の親戚に送ると喜んでもらえます。
甘みが強いので、すき焼きや鍋に入れると美味しい…らしいです。
実はあまりネギが好きではなくて…。
薬味でならいいのですが、ネギそのものを食べる料理は苦手です、焼き鳥のねぎまとか。
ネギ好きの母は大喜びなのですが。
焼き芋も美味しい季節ですね。
安納芋なんて、あまりの甘さに初めて食べたときは衝撃を受けました。
地元でちょっと変わった歯医者さんが居て、診察のかたわら焼き芋を売っているのです。
専用の「焼き芋焼き機」を設置して、お芋も厳選して取り寄せて。
さすがに診察室とは別の場所で売っているのですが、治療中も甘い香りは漂って来るそうです。
治療は受けたくないけれど、お芋は美味しいので通ってしまう。
今年もそろそろ行ってみようかしら。

次回は11月12日「地始凍」に更新します。



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by bowww | 2014-11-07 10:23 | 七十二候 | Comments(2)

第五十四候 楓蔦黄

 フルムーン旅行、とでもいうのだろうか。
 男は電車に揺られながら思う。
 下の娘が先月、嫁に行った。上の二人の息子たちも、それぞれ家庭を構えている。
 これでようやく、子供たちを無事に育て上げたと胸を張れる。
 妻と二人だけで旅行は新婚旅行以来だった。
 男の仕事は忙しく、家のことは妻に任せきりだった。
 定年まで残すところ数年となり、娘を嫁がせ、やっと気持ちに余裕ができた。
 ローカル線に乗って、紅葉や温泉、新蕎麦を楽しむ旅。
 妻をねぎらうつもりで、秋が深まる信州へ連れ出した。

 あいにくの小雨模様だったが、妻は窓の外を流れる田園風景に目を細めていた。
 娘が買ってくれたという深いワイン色のスカーフが、顔に映えていつもより若々しく見える。
 男は向かいの席から妻を観察した。
 確かに皺が増えた。白髪もある。だが、顎の辺りは年齢の割にはすっきりしていて、横顔は若い頃とそう変わりがないように思う。
 二人っきりで電車で向かい合っていても、特に話すことはない。
 何十年も夫婦でいれば、こんなものだろうと男は思う。
 妻がチョコレートを差し出した。男は黙って一つ摘む。
 昔はよく、家族で旅行へ出掛けた。子供が騒がしいと男の機嫌が途端に悪くなる。だから子供たちがむずかると、妻は小さな鞄から玩具やら駄菓子やらを次から次へと取り出してなだめていた。
 あんな小さな鞄に、どうやってあれこれ詰め込んでいたのだろうと、男はふと思い出す。
 電車はゆっくりと北へ向かっている。

 戸隠に着くと雨は上がり、薄日が射してきた。
 まずは腹ごしらえに蕎麦を食べてから、戸隠神社へ行く。
 随神門から奥社へ向かう参道は、杉の巨木が連なる並木になっている。昼も小暗く空気はしんと冷たい。
 男と並んで歩いていた妻が、「ここは変わらないわね」と呟いた。
「お前、来たことあったっけ?」
 男が気なしに問うと、妻は一瞬、言葉に詰まった。
「…そう。娘時代にね」
 参道が急に険しくなり、男の注意は足元へ逸れた。
 会話はそこで途切れた。

 宿は山間の温泉旅館だった。
 チェックインを早めにして、夕飯の前にそれぞれひと風呂浴びる。
 男は妻よりも先に部屋に戻り、窓辺のテーブルでビールを空けた。
 雨上がりの空気は澄み渡り、沈む直前の太陽の光が目の前の山肌を照らす。
 金や黄、ところどころに深紅。もうすぐ冬を迎える木々が、ありったけの色を絞り出して豪奢に峰々を染め上げる。
 日が沈む。
 妻が戻って来た。
「もう少し早ければ、山がきれいだったのに」と男が言うと、
「私はお風呂から見ていたわ」と答えた。
 浴衣を着た洗い髪の妻は、ほんのり上気している。
「…あら、あそこも紅葉してるのね」
 庭が途切れる辺りに、枯れかけた松の老木があった。
 蔦がぎりぎりと巻き付き、葉が滴るような赤色に染まっている。光を失ってひたひたと藍色に沈んでいく景色の中で、そこだけが暮れ残っていた。
 男は残っていたビールを妻に注いでやった。
 妻は苦そうに飲み干した。
 夕飯まで、まだ少し間がある。
 手持ち無沙汰になった男は、部屋に備え付けてあるテレビをつけた。

 夕飯の後、男はもう一度、風呂に行った。妻は面倒だからと部屋に残った。
 浴場まで行ってタオルを忘れたことに気がつき、男が部屋に戻った。
 部屋の前まで行くと、妻の声が漏れ聞こえた。誰かと電話で話しているらしい。
「…そうなの。あの参道。あなた、途中で息が切れちゃって…」
 妻がくつくつと笑う。声が甘い。
「…うん、また一緒に…。今度はどこ…」
 男は部屋の襖を開ける。
 窓際の椅子に座っていた妻は、ゆっくりと電話を切って男を見た。
 真っ暗な窓の向こうに、見えないはずの蔦紅葉が見えた。


  この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉 三橋鷹女



〜楓蔦黄(もみじ つた きばむ)〜


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今年は紅葉が綺麗だね、と周りの人と言い合っています。
朝晩の冷え込みがきつかったせいでしょうか。
イチョウもカエデも庭のドウダンツツジも、色がパキッと冴えています。
カラマツの黄葉も好きです。
カラマツ林のある山全体が金色に染まり、まるで日向ぼっこをしているように見えます。
この色とりどりが散ってしまうと、寒い寒い冬が来ます。
あああぁ…年末の仕事の追い込みだとか、年賀状だとか、大掃除だとか。。
11月になると、「んぎゃあ…!」と叫びながら逃げ出したくなります。
一晩寝て覚めたら、なにもかも終わっていてお正月になっていればいいのに…。

海の旬はカジキ、ボラ(カラスミを、ふりかけ状ではなくてしっかり切り身で食べてみたい、という夢があります)などなど。
山の旬はニンジンなどなど。
林檎の季節です。
先日、栗原はるみさんがタルトタタンを作っている様子をテレビで見てから(2年前の番組の再放送でした)、ずっとタルトタタンが食べたくて仕方がありません。
美味しいアップルパイでも可。
パン屋さんのアップルパイも好きです。
仕方がないので、100%のりんごジュースを買って来て、電子レンジでチンして飲んでいます。
ホットりんごジュース。
酸味が和らいで甘みが増して、美味しいのです。
クローブやスターアニス、生姜なんかを入れて風味をつけても。
喉と鼻の奥に、風邪の気配が…なんて時に飲むと、体が温まります。


次回は11月7日「山茶始開」に更新します。


※どういうわけか、自分のスマホからはこの記事の写真が見られなくて…。
パソコンではきちんと見られるんですけれど…。
念のため、もう一度アップしてみます。

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by bowww | 2014-11-02 10:10 | 七十二候 | Comments(7)