地軸の軋む音(夏至)

 どうして子供の頃は、寝るのがあんなに嫌だったのだろう。
 特に、昼寝が大嫌いだった。
 外はまだ明るい。眠くない。ちっとも眠れない。もっと遊ぶ。もっともっと遊ぶ。
 寝かしつける大人の手を払いのけ、駄々をこねていたはずなのに、いつもいつの間にか眠りに落ちていた。
「今なら、いつでもどこでも何時間でも眠れるのに…」
 お風呂上がり、髪を乾かしてから床にごろりと転がる。

 そういえば、祖母は私を寝かすのが得意だった。
 夏、祖母の家に遊びに行くと、蚊取り線香の匂いがした。
 昼ご飯を食べ終えると、昼寝の時間がやってくる。
 遊びたいとせがむ私を、祖母は「まぁまぁ」とかわして自分が畳の上に横になった。
 うつ伏せになって、耳をぴたりと畳につける。
「ほぉ…なるほどね。うんうん、なるほどなるほど」
 一人、頻りに頷き、感心した風になる。
「おばあちゃん、なぁに?誰とお話してるの?」
「こうしてると地面の音が聞こえてくるの。いろんな音が聞こえるから、いろんな事が分かるんだよ」
 私も真似して、畳に耳をつける。
「何も聞こえないよ」
「…しっ!静かぁに待たないと。
 今はね、庭のキュウリが大きくなってる音がする。朝、水をやったから、嬉しくてぐんぐん大きくなってるんだね。
 おや、池で何か跳ねたかな?カエルかな?
 う〜んと遠くで、雨粒の音がするよ。もうすぐここにも雨が降るね」
 私は耳に意識を集中する。
「…ザッ!ザッ!ザッ!て音がする」
「ああ、それはきっと、小さな小さな兵隊さんたちが、嫌な夢を追い払うために行進しているんだね」
 開け放した窓から、気持ちの良い風が流れ込む。
 小さな兵隊を見たくて目をこじ開けようとするけれど、瞼はとろりと重たくなっている。
 ザッ!ザッ!ザァッ…ザァッ…。
 波の音にも似ているなと思った頃には、私はすっかり眠りに落ちている。
 そして、大粒の雨がパタパタと地面を叩く頃、私はバスタオルにくるまって目を覚ますのだ。左の頬っぺたに、畳の目の跡をくっつけて。

 床に耳をつける。
 ここはマンションで地面から遠いから、耳に届くのは、空調や冷蔵庫が低く唸る音ばかりだ。
 おばあちゃんの家の畳は、もっと賑やかだった。
 目を閉じて、深く息を吸い、息を吐く。
 地面に向かって耳を澄ます。


  夏至ゆうべ地軸の軋む音少し  和田悟朗


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夏至の前日、昨日の朝焼けです。
4時半にもなれば、夜が明けますね。
日の長さを一番楽しめる季節なのに、日本はちょうど梅雨の季節。
雨模様の空の上で、お日さまは少しずつ、寝坊になっていくのですね。
今日は久しぶりの雨です。
大雨は心配ですが、草木も地面もやっと潤ってくれそうです。





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# by bowww | 2017-06-21 12:09 | 作り話 | Comments(0)