「いつでもここに来ればいいよ」。 ふと、思い出す声。 昨日まで王様は僕だったのに、ちっぽけな赤い猿みたいな生き物が登場した途端に、僕の天下は終わった。 父さん母さんはもちろん、おじいちゃんおばあちゃん、通りすがりの大人たちまで、生まれたばかりの弟に微笑みかける。 僕は弟のおまけみたいだ。 泣いても笑っても怒ってもほったらかし。 弟なんか、いらない。 「ほら。一口齧れば充分さ」。 誰の声だっただろう。 苔むした木の根もと。 彼女は一番の友達。何でも話せる親友。 頭が良くて明るくて、そしてとても可愛い。中途半端なアイドルより、ずっと可愛い。 私の大好きな友達。いつも一緒。 でも、時々、たとえば二人並んで大きな鏡の前に立った時。 たとえば担任の先生が、彼女にだけ優しい言葉をかける時。 ずるい。 息が詰まる。 「効き目はゆっくりだけど、確実だよ」。 よく知っている、懐かしい声。 落ち葉が朽ちていく匂い。 しんと冷えた空気。 娘を連れて実家に行く。 フリルのついたワンピースや知育絵本、オーガニックな材料で作ったお菓子。 行く度に、子供の為になる何かが用意されている。 三歳の娘は自己主張が始まったばかりで、好き嫌いが激しい。 為になるものほど、見向きもしない。 「あらあら、お母さんとそっくりの我がままさんね。 あのね、つまらない物ばかり与えていると、くだらない女の子になっちゃうのよ」 淡いピンクベージュの口紅で整えられた母の唇が、見事な弧を描く。 ねぇ、お母さん、私はあなたが嫌いです。 近所の公園で、学校の裏庭で、寂れた避暑地の林で。 静かに肥えていく茸。 「もうすぐ月が満ちるよ」 月光に毒を蓄へ毒きのこ 遠藤若狭男
by bowww
| 2017-10-23 22:30
| 作り話
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