晩秋の大きな木(霜降)

 うたた寝から覚めると、電車は山間(やまあい)の村を走っていた。
 身じろぎもせず眠っていたらしい。節々が強張っている気がして、堅いシートの上でそっと体を伸ばす。
 四人掛けのボックス席の向かい側には、いつの間にか一人のおばあさんが、ちんまりと座っていた。
 昔の着物を仕立て直したらしい藍染め絣のコートに、白髪のまとめ髪がよく映える。
 車内は秋の陽射しがたっぷり入って暖かい。私と交代のように、今度はおばあさんがうとうとし始めた。
 乗客は少ないのに、おばあさんは律儀に自分の荷物を膝の上に乗せている。
 花柄の買い物袋から、真っ赤な林檎と黄色いビスケットの缶が覗いていた。
 窓の外には、僅かな平地を細々と区切った刈田が見える。早くも暮れようとする西日が、東の山の斜面を照らす。金色に色づき始めた山肌は、少しでも多く温もりを抱え込むように明るかった。
 大きなカーブに差し掛かったのか、電車が大きく傾く。
 おばあさんの荷物が崩れかけ、思わず手を伸ばして支えた。
「…あらあらまぁまぁ、どうもすみません」
 おばあさんは歌うような調子でそう言った。
 私は姿勢を戻して、笑顔を返す。
 アナウンスが次の駅の名を告げると、おばあさんは降りる準備を始めた。
 間もなく、電車は小さな駅に止まった。
ホームだけがやけに長く、待合室しかないような駅舎は私たちが乗った車両よりもずっと後ろにあった。
 おばあさんは立ち上がって、袋からビスケットの缶を取り出した。
「ほい、おやつ」
 私の膝にトンと乗せて、思っていたよりずっと達者な足取りで電車を降りた。
 断る間もお礼を言う間も与えない、絶妙のタイミング。与え慣れている達人の間合いだ。
 動き出した電車の窓から、小高い場所にある数軒の家が見えた。
 大きなケヤキの木が三本、集落を守るように立っている。
 おばあさんの家が、あそこにあるような気がしてならない。
 黄色の缶には、胡桃を齧る栗鼠の絵が描かれている。

   帰るのはそこ晩秋の大きな木 坪内稔典

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お天気、すっきりしません。
こうも曇り空が多いと、能天気な人間もちょっと塞ぎがちになります。
少し仕事が立て込んでいるせいもあって、職場でついイライラと喧嘩っ早くなります。
いけないいけない。
「なんだろ、何が足りてないんだろ、私。カルシウム?イソフラボン?」という呟きを聴き取った上司に一言、「酒だろ?」と返されました。。
そこまでアルコールに依存してはおりませぬ。
いずれにしても、私に一番足りていないものは辛抱だと思います。
そんな私を哀れに思ったのか、それとも祟られないようにというお供え物のつもりなのか、同僚が「ほれ」とキャラメルを一箱くれました。季節限定「和栗」キャラメル。
キャラメル舐めて一息ついて、どうかもう少し穏やかな人になれますように。

写真の大きな木はブナの木。
大きな木のそばに立つと、何やら嬉しくなってニコニコしてしまいます。
見上げるだけで気持ちがスカッとします。
お天気が良くなったら、木に会いに行こう。

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ぐっと冷え込むようになりました。
「火恋し」という季語もあるそうです。
そろそろ暖房が欲しい。と同時に、人恋しい気持ちも含まれているのでしょうね。
体も心も寒さに負けないようにしなくては。

※パソコンからの投稿が出来なくなっているのでしょうか?やむなくスマホから投稿。
見辛い箇所がありましたらご容赦くださいませ。
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by bowww | 2016-10-23 22:40 | 身辺雑記 | Comments(0)


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