第二候 黄鶯睍睆

 祖母は桜餅、祖父はうぐいす餅が好きだった。
 私は桜餅派、父と兄も仲間。母は甘いものはあまり好まない。
 祖母はよく、お気に入りの和菓子屋で桜餅を4つ、うぐいす餅を2つを買って来た。
「うぐいすは一つでいいんじゃないの?」と訊ねると、「だって一羽じゃ寂しそうでしょ」と微笑んだ。
「菓子などいらん」と言っていた祖父が、こっそり二つ食べていたことを家族は皆、知っていた。
 昔気質の祖父は感情を露にする人ではなかった。孫の私たちを猫可愛がりすることもなかった。
 だけれど、小学生の私の筆箱には、祖父が毎朝、小さなナイフで削ってくれた鉛筆がきちんと並んでいた。ランドセルには、祖父があちこちで買い求めた「学業成就」やら「交通安全」やらのお守りが幾つもぶら下がっていた。
 祖母はよく笑う人で、物静かな祖父とは対照的だった。
「おじいさんの分まで笑ってあげてるのよ」と言ってはコロコロ笑った。

 夏の終わりに患い、年が明けてすぐに、祖父は静かに旅立った。
 祖母は「お花見に連れて行ってくれる約束、やっと取り付けたのに。まったく、私、おじいさんに言いたいことがまだまだあったのよ」と、コロコロ笑った。
 そして、ポロポロ泣いた。

 少し日射しが明るくなった頃、祖母は菓子の包みを抱くようにして外出から帰ってきた。
 桜餅を3つ(兄は社会人になって独立していた)、うぐいす餅を2つ。
 祖母と私はお茶をいれて桜餅を食べた。
「おじいさんね、最期に『ありがとう』って言ってくれたのよ。あら、この人、ちゃんとお礼が言えるのねって驚いちゃった」と祖母が言った。
「おじいちゃん、優しかったよね」
「どうかしらね、素直じゃない人だったから。
 私たちがまだ若くてすごく貧乏だった時、一杯のご飯も一つのパンも二人で分け合ったの。そんな時、いつも私の方を少しだけ多くしてくれたのよ。私、それで『ああ、この人は優しい人なんだ』って思っちゃった。
 でもね、お菓子だけは別。絶対に譲ってくれなかったのよ」
 そう言って、コロコロ笑った。

 仏壇には、うぐいすが二羽、仲良く並んでいる。


〜黄鶯睍睆 うぐいすなく〜



 「春告げ鳥」と呼ばれる鶯が鳴く頃…ということです。が。
 春は名のみですね。この辺りでも十数年ぶりの大雪でした。
 それでも、早い所では梅も咲き始めているそうですから、それほどかけ離れた感覚ではないのでしょうか。
 学生時代のアパートは山際にあったせいか、ホーホケキョがよく聞こえました。初めての一人暮らし、部屋で手持ち無沙汰に膝を抱えていた時、「鶯って本当にホーホケキョと鳴くんだなぁ」と感心したことを思い出しました。
 この時季の旬のものはサヤエンドウや小松菜、ニシンなどだそうです。

 鶯の声を聞くにはまだ早いので、安易に「うぐいす餅」が登場。
 でも、私は桜餅派です。それも断然、道明寺。
 葉っぱも一緒に食べられるようになったのは、大人になってからです。
 

 次回は「魚上氷(うお こおりをいずる)」、2月14日に更新予定です。




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by bowww | 2014-02-09 00:16 | 七十二候 | Comments(2)
Commented at 2015-10-22 10:07
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by bowww at 2015-10-22 12:17
> 鍵コメ・Sさま。

こんにちは。
なんて嬉しいコメント!ありがとうございます。
おかげで今日一日、ご機嫌で過ごせそうです♪
拙い「作り話」ですが、遡って読んで頂けるなんて、こんなに嬉しいことはありません。
ぜひよろしくお願い致します。

ワタクシ、実は「惑わず」の年代でございます。
ですので、「現役ピッチピチ☆」なお話を作れないのが、目下の悩みです(笑)。


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